第33話 決闘終了
(痛ぇ・・・っ・・・・・・!)
背中から放たれた不意打ち気味のビームをその身に食らい、ふっ飛ばされ地面を転がり、飛びかける意識をなんとか気合で繋ぎ止め、流浪は状況を確認する。
精神ダメージに変換された魔法攻撃と、防護鎧衣の防護性能で肉体に見て判るような損傷は無いが、痛覚は刺激されており攻撃の痛みは感じる。
痛みは身体の前面に広がっており、ビームを受けた箇所だった。
身体は無傷でも、鎧にはヒビが広がっている。
この程度なら専用の設備を使わなくても、デバイスに標準装備されている魔力の自動精製機能で元の形状に修復されるだろう。
(身体は・・・・・・問題ねぇな)
痛みはあるが、動けない程じゃない。
スポーツ競技として魔法師の決闘には慣れている流浪にとっては、この程度の痛みは日常茶飯事。
動きに支障は無かった。
ふっ飛ばされて地面に横たわる身体を起こし、流浪は周りを見る。
弾丸や誘導弾を放ち遠距離から攻撃する田中学と、剣と盾でそれらを捌き接近戦に持ち込もうとする岸本栄一。
2人が一進一退の戦いを繰り広げていた。
(なんであの2人が戦り合ってんだ?)
ふっ飛ばされた時に追撃が来ない事に疑問を感じていたが、何故か自分を狙ってはこなかったようである。
何でそうなったのかは判らないが、取りあえず現状を把握し終え、流浪は2人纏めて殴り飛ばそうかと足を動かそうとするが、思い留まる。
(つか、今なら逃げられんじゃね?)
元々この決闘は巻き込まれて起きたモノで、特に参加しなければならない理由は無いし、別段参加したいとも思わない。
(よし、逃げよう‼)
未だに気絶している花凛を見つけ、流浪は戦っている2人と、2人の戦いに見入ってるギャラリーに気取られないようにそろりと足を動かし花凛に近づき、ゆっくりと抱きかかえる。
幼馴染みを確保し、後は気づかれないようこのままこの場から離れようと、流浪は再び抜き足差し足で歩き出すが、
『おぉっと⁉ 起き上がった新入生! 標的そっちのけで戦う2人の上級生から逃げようと、コソコソとこの場から立ち去ろうとしている! 果たして、彼は無事に彼女を抱えてここから逃げ切ることが出来るのかぁっ⁉』
(実況テメエエエエェェェェェェェェーッ‼)
逃げようとしている事を察しながらもマイク越しに大きな声を上げられて、上級生2人に気付かせてしまう実況を、流浪は堪らず殴り殺したくなる。
だが、そんな事をしている暇はない。
気づかれた以上、さっささとこの場から逃げなければ。
「待てぇいっ‼」
逃げる流浪の前に、上空から1人の男が跳んできた。
太陽を思わせる金糸の長髪を尻尾の様に後ろに纏め、左腕に生徒会長の腕章を巻いた生徒。
『おぉーっと、ここで神爪生徒会長が乱入だああああぁぁぁぁぁぁぁぁーっ‼』
ギャラリーから凄まじい歓声が発せられる。
不敵に立ち塞がる神爪生徒会長に、流浪は舌打ちした。
これで3対1。
目の前には生徒会長、後ろからは上級生2人が近づいてきている。
この現状をどうするか?
嫌な汗が鎧の下で流れ緊張感が高まるが、
「いやぁ、悪かったな新入生」
なんて謝る生徒会長に、流浪は気が緩む。
てっきり襲い掛かって来るものとばかり考えていたので、意外な結果に呆気に取られた。
何にせよ、自分を決闘から外してくれるのなら、もうそれでいい。
この男のせいで巻き込まれたので色々言いたい事もあるが、それをここで言っても長引くだけだ。
早々に切り上げて立ち去るとしよう。
この場から去ろうと歩を進め、神爪の横を通り過ぎ――――――――
「まぁ、待て」
―――――――ようとしたら、ガシッと肩を掴まれた。
「・・・・・・何だよ?」
訝し気に眉を寄せる流浪に、生徒会長は少年漫画主人公のライバルキャラの様な不敵な笑みを浮かべる。
「流石にいきなり2対1はきつかったよな。悪かった」
「は?」
『悪かった』ってそういう意味かよ⁉ と、流浪は睨み付けるが生徒会長に効果は無い。
「だが安心しろ、こっからは俺様が加勢してやる」
「え?」
「コレで2対2だ。何も恐れる事はねぇ」
「すまん、ちょっと待ってくれ・・・・・・!」
全くこちらの気持ちを理解していない生徒会長に、流浪は頭を抱えたくなる。
自分はさっさとこの場から離れたいだけで、この場に留まりたいわけではないし、ここから逃げようとするのは上級生を恐れたからでもない。
単にこの場に落っこちただけであって、戦ったのは頭に血が上ったとはいえ仕方なしにだ。
流浪としては戦う理由など無いのだから、早くこの場から立ち去りたい。
「なぁ、オレ別に戦う理由とかねぇんだけど。てか、何で決闘なんてしてんだ?」
「漢と漢が女を賭けて戦うんだ。決闘しかねぇだろ」
「女って誰だよ⁉ つーか、尚更オレ関係ねぇだろうが‼」
「いやいや、関係あるだろ」
「ぁあ?」
「だってお前とその娘も、どっちの部に入部させるか賭けの対象に入ってんだから」
「何でだよ⁉」
何で自分達が入部の対象になっているのか?
魔法戦競技部にも科学部にも入るなど一言も言っていないというのに。
そんな思考を読んだのか、生徒会長は「諦めろ」と眼力で威圧する。
「あそこにいる娘をどっちの部に入れるか揉めてる時に、お前らが乱入してきたんだ。だったらその勝負に参加させられるのは別におかしなことじゃないだろ?」
あそこにいる娘を指す生徒会長。
その指の先には、こちらを訝し気な眼で視ていた桜色の髪をした女生徒がいた。
何故あんな目を向けているのか、その女生徒と生徒会長の事を知らない流浪にはよく分からなかった。
「いや、オレ等は事故で飛ばされてきただけってアンタ知ってたろうが!」
「知ってるが、校舎裏は危ないから立ち入り注意の看板出てただろ。それ無視して校舎裏に行ったんだから、そこから生じた事故は自己責任だと思うが?」
「ぬ・・・・・・」
追いかけてくる勧誘から逃げる事で頭がいっぱいで、周りなんて見ていなかった。
いや、確かに看板みたいなものが視界の隅に映ったような気がしなくも無かったが、それでも事故でふっ飛ばされて此処に落下し、自分達の意思とは無関係に部に強制入部させられるのはやはり理不尽だろう。
そんな怒りが沸々と顔に浮かんで来る流浪に、生徒会長は何も問題無いと肩を竦める。
「あの2人が勝ったら、どっちかの部に入れられる。なら、お前が勝てばいいだけだろ?」
「・・・・・・・・・・・」
それなら確かに誰も文句は言わないのだろうが、そもそもそんな勝負を受ける義理は無い。
流浪のそんな思考を察した生徒会長は「分かった分かった」と頭を振る。
「そんなに自信が無いなら仕方ねぇ、そのまま逃げても構わねぇぞ」
「・・・・・・ぁあ?」
「ま、確かにビビってる奴に戦えは酷だったな。悪かったな、もう行っていいぜ」
「おう待てや、誰がビビってるって?」
背を向けて去ろうとする生徒会長の肩を、今度は流浪が掴んで止めた。
「ん? どうかしたか?」
振り返る生徒会長の顔を見て、流浪は確信した。
この生徒会長は全部わかった上で言ってやがる、と。
こんな安い挑発に乗る事も、この挑発をすれば流浪の頭に血が上るのも、そして、
「いいぜ、やってやるよ」
舌打ち交じりに、こう言ってしまう事も。
相手の全てを見透かす様なムカつく目をするこの生徒会長に乗せられるのは癪に障るが、このまま此処を去っても違う部からの勧誘で追い掛け回されるのは目に視えている。
ちゃっちゃとこの場を腕づくで切り抜け、力づくで勧誘しても無駄だという事を分からせてやる。
力には力で、だ。
「分かってるよな、生徒会長?」
幼馴染みを少し離れた場所へ寝かせ、流浪は拳を鳴らしながら生徒会長の横に並んだ。
「アイツ等が勝ったら、オレを好きな部に入れりゃあいい。けど、オレが勝ったら・・・・・・」
「分かってるさ」
「・・・・・・そうか」
「お前が勝ったら・・・・・・——————————生徒会へ入れてやろう」
「やっぱ分かってねぇだろお前⁉」
自分達が入る部活は自分たちで決めるという意味だったのに、全く意思疎通が取れてなかった。
勝っても負けても自分の意思とは関係ない所へ所属させられる。
驚くほど流浪にメリットが無かった。
「よし、これでもう文句は無いな? んじゃ、行くぜ‼」
「いや文句しかねぇよ‼」
戦う構えを取る生徒会長は「え?」と、キョトンとした顔をする。
何でこの状況でそんな顔をが出来るのか、流浪は理解出来なかった。
ワザとやってるとしか思えない生徒会長に、流浪は文句を口にしようとするが、
「貴様らぁぁああああッ‼ 何だこの騒ぎはぁぁぁあああああああああッ‼」
突然轟いた怒声に掻き消される。
驚きながら怒声に顔を向ける流浪の視線の先、校舎の方から何かが凄い勢いで土煙を撒き散らしながら此方へ爆進して来る。
その接近して来る何かを見て、周囲にいた生徒は恐慌しだす。
「やべぇ! 怪物筋肉漢が来るぞ⁉」「みんな、武器を取れ! 今こそ反逆の時‼」「無理だ! 奴に勝てる訳がねぇ‼」「命が惜しけりゃ逃げた方が良いぜ⁉」「この学園の教師は化け物か‼」
右往左往するギャラリーを突っ切って来る教師に、生徒会長は「チィッ、あのクソゴリラ。いいタイミングで来やがって」と悪態を吐く。
爆走教師が急ブレーキで止まり、周囲を見回した後、生徒会長に目を向ける。
「神爪、生徒指導室に来い」
「おう待てや、何でいきなり俺様を名指しする?」
「この騒ぎはお前が原因だろう‼」
「このクソゴリラ、断言しやがった・・・・・・!」
部活勧誘週間は、部が未加入の生徒を部活に勧誘する期間。
基本騒ぐ者が多い此処の生徒が、勧誘期間に騒動を起こすのは目に視えている。
だから多少の騒ぎもこの期間は容認されるのだが、それにも限度というモノがある。
例えば今の様に、勧誘する生徒を大勢で囲っているとか、賭けで入れようとしている事とか。
流石にそんな事を教師が容認出来る筈は無かった。
「それじゃあ、誰がこの騒動を起こしたんだ?」
東郷伊知郎の言葉に、この場にいる皆は考える。
最初は天使縁寿を巡っての、魔法戦競技部と科学部の争いが元だった。
そこから決闘へと発展し、そこに竜道寺流浪と藤森花凛が落下し、更に勧誘する対象が増えて、今に至る。
元は魔法戦競技部と科学部の争いだが、天使縁寿本人は魔法戦競技部に入る気しかなく、科学部に入る気は無かった。
だからこんな争いをしなくても、入部届を魔法戦競技部の部長か顧問に渡せば、それで終わるはずだった。
科学部からの妨害などは起こるかもしれないが、それくらいは教師に相談すれば解決する事だ。
なら、誰がここまでの騒動に発展させたかと言えば。
「・・・・・・おい、何で皆して俺様を視る?」
そもそも生徒会長が決闘を許可したり、ギャラリーを集めなければ此処までの騒動にはならなかったのではないか?
勿論たらればでしかないし、みんなも乗り気だったが故に責める事はお門違いなのだが、誰が騒動の原因となったのかと言えば、やはり生徒会長なのだろう。
そんな空気を感じ取った東郷伊知郎は、神爪生徒会長に向ける目をより鋭くした。
「やはり貴様だろうが! それでも生徒会長か⁉」
「異議あり! 断じて俺様のせいではない‼」
「言い訳するな‼」
「えぇい、頭ごなしに説教かッ⁉」
そして生徒会長と東郷教師の戦いが始まった。
2人の拳がぶつかり衝撃波を撒き散らす中、ギャラリーは蜘蛛の子を散らす様に逃げていく。
このままこの場に留まれば巻き込まれかねない。自分の安全が最優先だ。
この状況に慣れていない外部生も危機感は感じているようで、混乱に乗じて脱出する。
「何で部活に入部するだけでこんな騒ぎになってんの⁉」
「毎年こんな感じだからねぇ」
結局入部届を出すことも出来ずに走り去る縁寿は憤慨し、都古が宥める。
「やれやれ、決着は付けられなかったか」
「フ・・・あのままやっていれば勝利は私達科学部のモノだった。良かったじゃないか、エースの名を汚さずに済んで」
「現実と妄想の区別もつかなくなっているのかい? これだから研究詰めの科学部は。偶には外で身体でも動かしたらどうだい? 部屋に篭りっきりだから妄想癖を拗らせるんだよ」
「計算に元ずく想像と、思い込みの激しい妄想の区別も出来ない君はもっと勉学に励むべきだけどね。身体ばかり動かしているから脳みそが筋肉になってしまっているようだ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
決着がつかなかった栄一と学は走りながらガンつけ合い、無言で決闘を再開する。
「おい花凛! いい加減起きろよ‼」
「ぅ・・・ぅ~ん・・・・・・ケーキの・・・山が・・・・・・」
「人が必至こいて戦ってたっつーのに幸せそうだなオイッ⁉」
幸せそうな顔をして未だに起きない花凛を抱えながら、流浪は寝言にキレつつ駆け抜ける。
防護鎧衣を装備したままな為、魔力による身体能力上昇で周りの生徒達よりも速く走り、学校の敷地の外を目指す。
この騒動だ。もうじっくりと部活見学なんてする気にもなれず、この場に居たギャラリーは皆帰ることにした。
まだ部活勧誘週間は初日。
所属する部活や委員会を決める期限は、まだ1週間近くある。
勧誘も見学もまた明日すればいい。
尤も、明日もまた今日と同じような事が起こる可能性はある。
その可能性を考えると頭が痛くなるが、流石に次は教師が警戒しているだろうと前向きに考えることにして帰路につく。
・・・・・・ちなみに神爪勇人と東郷伊知郎の戦闘は、下校時間間際まで続いたのだった。




