第28話 決闘
「何なのよ、この状況・・・・・・・・・」
やっとの思いで茂みを抜けて無事に目的の場所、魔法戦競技部が活動しているフィールドへと辿り着いた縁寿は、目の前の状況に深い溜息を吐いた。
校舎から少し離れた位置にある、フィールドこと闘技場。
外観は普通の体育館と然程変わらないが、違いはその建物の内装と性能だ。
魔法を使用する競技の中でも、今最も人気がある競技。
それは魔法使い達が魔法を使って戦う、格闘技でありスポーツ。
その為、闘技場の造りは非常に頑丈になっており、魔術と科学がふんだんに使われている。
魔法というモノが世界の表舞台に出てきて、6年程前から開かれた現代魔法使い達の競技。
『魔法戦競技』
その活動が行われているのが此処の魔法戦競技部なのだが、今のこの状況は何なのだろうか。
目的の部である魔法戦競技部の部員と、別の部の部員が、闘技場前で睨み合っているこの状況は。
「いい加減手を引いてくれないか? 彼女は僕達の部に入ると言ってるんだから!」
魔法戦競技部の部員である男子が、爽やかそうなその顔に凄みを効かせながら言った。
睨み付けられている相手の白衣を着た長身痩躯な男子生徒は、そんな眼力など意に介さないようで、キラリと不気味に光るその黒縁四角眼鏡を指でクイクイさせながら笑う。
「フ・・・それはその子がそう言っているだけで、まだ入部届は出していないのだろう?」
「それはそうだが・・・・・・それがどうしたというんだ?」
入部届を出していないからといっても、本人の意思はもう決まっているのだから、他人がとやかくいう事ではない。
「まだ入部していないのなら、我ら科学部に入部させても何ら問題はないだろう⁉」
「いや大有りだろう・・・・・・・」
「私、科学部に入る気無いんだけど・・・・・・」
訳の分からない理屈を持ち出す科学部員に、魔法戦競技部員は呆れ、縁寿は嘆息し、後ろで都古は苦笑した。
そんな3人のリアクションなど視界に入っていない科学部員は、制服の上に羽織っている白衣のポケットから、1つの機器を取り出す。
手の平大のタブレット型のMDだ。
「ならばこの問題・・・・・・『決闘』で決着を付けようじゃないか‼」
『決闘』
それは、魔法戦競技を行う、魔法使いの戦い。
魔法を使って戦う格闘技のスポーツ。
この学園で起きた争いの解決手段の1つとして、この『決闘』が存在する。
両者の間で問題が解決しない場合、両者の合意と立会人の下、『決闘』で決着をつけることが出来る。
勿論、強制ではない為、断る事も可能だ。
もっとも、決闘を受けなければ中々問題は解決しない為、受ける事が殆どなのだが。
「・・・・・・・仕方ないか」
魔法戦競技部員の男もその例に漏れず嘆息し、渋々とその申し出を受け入れた。
瞬間、
『合意と見て宜しいですね⁉』
突然空から、そんな声が地上へ届く。
「何?」と、縁寿が空を見上げると1つの黒い影が落ちて来て、ドシンッと大きな音を発てながら、黒い影は着地した。
それは人だった。
派手な色合いのスーツを着た1人の青少年が、マイクを片手に空から落ちて来たのだ。
「いや、誰よ?」
「2年の秋山先輩だよ」
縁寿の疑問に、都古が解説を入れてくれる。
「秋山 闘士。『審判部』の部員で、『決闘』があると必ず飛んで来るんだよ」
「・・・・・・審判部とかあるの?」
「『決闘』を公平にする為にね。他の勝負事でも良く出張って来るけど」
その判定は公平で平等、ルール違反するものなら容赦なく取り締まる。
審判部の判定の前では、不正など行うことが出来ない。
それ程、この学園において公平さでは信頼されているのだ。
「フ・・・審判部の審判が居るのなら、不正を働かれる心配はしなくてよさそうだな」
「それは僕がルール違反をすると言いたいのかい?」
不気味に笑う科学部員の言葉に、魔法戦競技部員はムッと眉を歪めた。
科学部員は「いやいや」とワザとらしく肩を竦めて否定する。
「別に君に限った事ではないよ。相手の不正を心配するなんて、当たり前の事だろう。それとも君は不正するつもりだったのかね?」
「そんな事は無い。僕としては、君が不正を働かないかどうかが心配なんだけどね」
不敵に笑う魔法戦競技部員と、不気味に笑う科学部員。
互いの視線が交差し、その視線に火花が散る中、縁寿の「ねぇ、私の意思は?」という言葉が呟かれるが、それを聞く者は後ろにいる都古だけだった。
「おー、何か面白い事になってんな」
縁寿が嘆息していると、聞き覚えのある声が聴こえて来て皆の視線が集まる。
太陽を思わせる金糸の髪と、その左腕に巻いた生徒会長の腕章が目立つその男。
「勇人君」
自分の名を呼ぶ魔法戦競技部員に、勇人は「よお、栄一」とヒラヒラと軽く手を振って、次に科学部員を一瞥し「マッド田中、お前は相変わらずだな」と呆れ顔を作った。
「決闘やるんだろ。だったら、賑やかしが必要だよな?」
言いながら、勇人はポケットから取り出した端末ディスプレイを手元を見ないで操作する。
するとゾロゾロと校舎の中から生徒達が出て来て、この場に集まって来る。
集まって来た生徒達は、対峙する部員2人を、まるで戦うためのリングの様に囲んだ。
「何でこんなに集まって来るの?」
校内の彼方此方で、部活動に所属する部員達が勧誘の持ち場を放棄して寄って来た。
流石に全員ではないが、それでも付近にいた生徒の大半が、この場に集ったようだ。
今現在、部活勧誘でみんな忙しいハズなのだが・・・・・・。
「・・・・・・意外とみんな暇なの?」
ピクリと、縁寿の声が聴こえたギャラリーの肩が揺れ、ズーンという効果音でも聞こえてきそうな暗いオーラを纏いながら、その頭を俯かせて肩を落とす。
それを見て縁寿は「新入生確保出来なかったのね」と納得した。
『さぁさぁさぁっ! ギャラリーも集まった事だし、そろそろ始めようか‼』
マイクによる大音響で、審判である秋山が高らかに宣言する。
『まずは、決闘を行う決闘者を紹介するぞ! 魔法戦競技部所属、高等部2年A組、岸本 栄一。魔法戦競技部のエースで、昨年の全国魔法戦競技大会でも好成績を残した鳳凰学園の実力者だ‼ それに対するは科学部所属、高等部2年T組、田中 学。数々の科学兵器を生み出したマッドサイエンティスト、通称マッド田中。【摩訶不思議力】を応用した超兵器の存在はあまりにも有名だ‼』
「いや、【摩訶不思議力】って何よ・・・・・・?」
縁寿がそう呟くと、マッド田中は待ってましたと言わんばかりに眼鏡をキラリと逆光させて、クイッと指で持ち上げて解説を始める。
「【摩訶不思議力】・・・それは、私が発見した未確認のエネルギーだ! 知っての通り、現在人間がその身で操るエネルギーは大きく分けて3つ。肉体から発する生命エネルギーである【氣力】、精神エネルギーである【魔力】、自然界から発する霊魂エネルギーである【霊力】。私が発見した【摩訶不思議力】は、そのどれにも当てはまらない、正真正銘の新エネルギー‼」
ドドン‼ という効果音でも聞こえてきそうな大袈裟なポーズを決める田中学。
「その【摩訶不思議力】が、私の科学と合わされば、まさに無敵ッ‼」
手の平大のタブレット型MDを操作する田中学の身体が発光し、光に包まれる。
その光の中から現れたのは、全身をゴツい鎧で覆った田中学だった。
鎧といっても、それは身を護るためにあるのではない。
胸部、腹部、肩などの部分には砲台が備わっており、左腕には3つのガトリング砲、右腕には金属杭の様なものが付けられ、背には推進部が装着されていた。
「ガ●ダムか何か?」
何処ぞの機動戦士かスーパーロボットの様な出で立ちに、顔が引き攣る縁寿。
あの砲台からミサイルとかビームでも出るんだろうか?
「正直気は進まないが、やるからには楽しませて貰うよ」
岸本栄一は右手首に巻いているブレスレット型MDを操作し、起動させる。
そして田中学と同じく光に身を包まれた。
MDを起動し、防護鎧衣を装着する時に必ず起きる現象で、あの光の中で装着される。
それは古くから伝わる変身シーン的なアレで、アニメや特撮のヒーローや魔法少女が変身する時に出てくるアレである。
光の中の謎空間にて全裸になったりならなかったり、身体が謎の光に包まれ、身体の各部位に順番に装備が出現する。
一度発動してしまえば全てがオートで流れ、途中で止めることが出来ない。
光が収まり出てきたのは、軽装な鎧を装着した岸本栄一。
その姿は先日、藤村友紀が身に付けたジャケットアーマーの姿と殆ど同じモノだ。
違いがあるとすれば、友紀の鎧とは色が違う。
栄一の鎧は全体的に白い。
そして武装。
右手には藤村友紀と同じく西洋風のロングソードの形状を取る魔力光剣が握られており、左手には赤色のタワーシールドの様な盾を備えている。
動きやすさを重視した友紀とは違い、防御にも気を配るスタイルだ。
『それでは両者、準備はいいかな⁉』
生徒達の歓声が沸き上がる中、秋山のマイクを通した声が響く。
構えを取る2人を見て、秋山は高らかに宣言する。
『決闘試合ォッ! レディィィィ・・・・・・・・・ゴォォォォォォォォォッ‼』
開始の声と同時に、2人は激突した。




