第26話 とある少年少女の逃避行
「うぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ‼」
男は走っていた。
恥も外聞もなく、叫びながら必死な形相で、その男は校庭を爆走していた。
いや、その男だけではない。
周りを見れば、その男と同じように爆走している生徒が、男女を問わずに大勢いた。
だが、周りに構っている暇など無い。
その男―――竜道寺 流浪は、全速力で逃げていた。
後方から追いかけて来る、悪鬼の群れから。
「おい、もっと早く走れ花凛! アレに捕まったら終わりだぞ⁉」
「わ、分かってるけど、流浪君、走るの速過ぎ・・・・・・・・・」
「言ってる場合か! 後ろを見ろ‼」
流浪と一緒に走る幼馴染みの少女―――藤森 花凛。
パッと見、鋭い目つきと着崩した制服という柄の悪そうなヤンキー然とした風貌の流浪と、人が良さそうなクラス委員長の様な容姿の花凛が2人並んでいると、素行の悪い不良生徒とその面倒を見ている優等生を思わせる。
こんな、全速力で爆走中でなければ。
昔から外で走り回っていた流浪は、体力に自信がある。
そんな自分にピッタリと並走している幼馴染みの花凛に感心しつつ、流浪は必死に走り続ける。
何故なら、アレに捕まってしまえば、今後の学校生活がどうなるか分からないからだ。
「サバゲー部でぇーす! そこのお二人さん、是非部活見学していってくださーい‼」「野球部だ! 俺たちと甲子園に行こうぜ‼」「ようこそ! 鳳凰学園排球部へッ‼」「Welcomeラクロス部ー‼」「サッカーボールが友達さ‼」「バスケ部に入って、俺達と一緒にキセキの世代を倒さないか⁉」「いやいや、囲碁部に入って神の一手を極めよう‼」「俺が本当のテニスを教えてやるよ‼」「アメフトやろうぜ! YA―――HA――――――‼」
「なんかさっきより増えてるよ⁉」
「クソがッ、捕まってたまるかあぁぁーっ‼」
絶賛逃亡中な新入生達。
脇目もふらず猛ダッシュで逃げ続ける。
最初はまだ、此処まで必死では無かった。
放課後になり、部活を視て周ろうとしていた花凛が、様々な部活の勧誘で身動きが取れなくなり、それを見かねた流浪が割って入り救助しようとしたのだが、それがマズかった。
1人の少女が大勢に囲まれて絶賛大ピンチの時に、少女を助ける為にやって来た、1人の男。
そんな新入生を視て、彼らは何と思ったか。
下級生が調子コキやがってぇ、か?
カッコつけてんじゃねぇ、か?
爆ぜろリア充があぁぁっ‼、か?
否、どれも違う。
正解は、勧誘対象が1人から2人へ増えた事で各部が「鴨が葱背負ってやって来やがったぜヒャッハァァァアアアアアアアアアッ‼」と、テンションMAXで勧誘を開始、である。
狙った獲物は逃がさないと言わんばかりに、目の色を変えて2人を襲ってきた。
大勢のヤンキーに囲まれて喧嘩した時以上のヤバさを感じ取った流浪は、花凛の手を引いて勧誘の壁を力づくで突破。
今は生存本能に従って、超逃げている。
「何で⁉ 何で私達ばかり狙われるの⁉ 何で肉食動物に狙われた草食動物みたいに私達は校庭を走り回らなくちゃいけないの⁉」
「それはきっと、オレ達が涎が出るくらい美味そうな獲物に見えてるからだろうなぁ! 見ろよ後ろの先輩方を! 獲物を捉えた狩人の眼をしてやがる‼」
結構余裕がありそうな言い合いをする2人だが、あまりの恐怖・・・というよりパニックになっているのか、妙なテンションになっているだけである。
花凛よりは多少の余裕がある流浪は、チラチラと後ろを見ながら距離を測る。
徐々に自分達の速度が落ちてきているのか、肉食動物との距離は縮まっていた。
このままでは確実に喰い殺されるだろう。なんとかしなければ。
「そうだ、流浪君が1人で惹きつけて逃げるっていうのは?」
「サラッとオレを犠牲しやがったな・・・まぁ、それで逃げ切れるんなら別に良いけどよぉ・・・・・・」
チラッと、爆走しながら後ろを見る。
「藤森さん、藤森花凛さん、水泳に興味ないですかー⁉」「いやいや新体操部に是非来て1年F組の藤森花凛さん‼」「「競泳水着の密着具合が堪らないよー⁉」」
「明らかにお前を狙った勧誘も聞こえるぞ」
「何で私、クラスと名前ワレてるの⁉」
花凛の水着姿やレオタード姿やパンチラに興味が無い訳じゃないが、今は欲望に忠実になるべきではないと流浪は判断した。
「竜道寺くぅん! 美術部ですぅ! デッサンのモデルになってぇん‼ ハァハァハァ・・・・・・」
カマっぽい声を出す男の勧誘に身の危険を感じたとかでは断じて無い。
しかし、このままだといずれは追いつかれる。
何とかしようと、無い頭を振り絞って考える流浪だったが、
「お前達っ! 過剰な勧誘行為は禁止だ‼」
突然の怒声に思考を中断させた。
誰だ、と視線を向ける流浪の先には、校舎から飛び出してきた1人の女生徒の姿があった。
「クソッ、風紀委員だっ‼」「よりにもよって藤村友紀かよ⁉」「鳳凰学園の『戦姫』・・・・・・」「なんか物凄い形相でこっちに来てんぞ⁉」「四天王の一角がもう出て来やがったのかっ‼」
口々に叫ぶ追跡者達の言葉から、どうやら只者ではない女生徒らしいが、新入生にして外部生である流浪が知る筈も無かった。
なんにせよ、今がチャンス。
「コッチだ、花凛!」
「ぅえぃっ⁉」
急に手を引かれて素っ頓狂な声を上げる花凛だが、ツッコんでいる時間が惜しい流浪はそのまま花凛の手を引いて、人気が少ない校舎裏へと逃げ込んで行った。




