第24話 鳳凰学園生徒会
「毎年の事とはいえ、ほんっとにこの時期は忙しいな」
生徒会室で、生徒会長の席で、生徒会長・・・・・・神爪勇人は、神妙な顔をしつつ両手で機械を操作している。
その機械に付いているディスプレイを見つめる視線は真剣そのもので、真面目に業務に取り込んでいる風だ。
同時にパソコンを操作しながら、手に持つ機械を凝視しては、彼は心底真面目な様子で機械を操作する指を忙しなく動かす。
そんな生徒会長に、生徒会副会長の一人、正宗は重い溜息を吐きながら、
「まぁ、確かにこの時期は毎年忙しいけどな」
ひょいと、勇人が持つ機械を取り上げた。
「あ」っと勇人が呟き、機械を取り上げた正宗を見やる。
額に青筋を浮かべていた。
「テ・メ・ェ・はっ‼ このクソ忙しい時に何やってんだ⁉」
「いや、何ってお前――――――」
勇人の視線の先、正宗に取り上げられた機械のディスプレイ。
そこには、こう表示されていた。
『たまごがかえってミミ●キュがうまれた!』
「――――――ポケ●ン」
「そういう事を訊いてるんじゃねぇっ‼ 何でこのクソ忙しい時にポ●モンなんてやってんだって聞いてんだよッ!?」
「何でってお前、後半年くらいで新作出るだろ? だからその前に新しく厳選してだな」
「知ったこっちゃねぇよッ‼」
「あんだとテメェ、レート上げんのにどんだけ苦労すると思ってんだよ‼ 新作でレート廃止されてもランク上げんのに苦労すんのは解りきってんだろうが‼ だから個体値調べて厳選してんだろうがッ‼‼」
「知るかぁぁぁああああああっ‼ んな事訊いてねぇんだよぉぉぉぉぉぉぉぉっ‼」
「最強のポケモ●トレーナー・・・いや、●ケモンマスターに俺様はなる‼」
「どうでもいいわ仕事しろオオォォォォォォッ‼」
勇人の襟首を掴んで、ガクガクと強く揺さぶる正宗。
机の上には書類の山、それも今にも崩れそうな程高く積まれている。
この時期、仕事は溜まっていく一方だ。
にも関わらず、呑気にゲームをやられたんじゃ、仕事が終わらない。
ただでさえ終わるかどうかも怪しいというのに・・・・・・・・・。
全く懲りない悪びれない生徒会長の首を腕で固めつつ、正宗は同じ生徒会役員の皆に向かって叫ぶ。
「お前らもコイツに何とか言ってやれ‼」
「・・・・・・ああ、御免なさい。何かしら?」
正宗と同じく生徒会の副会長の座にいる、腰まで伸びた艶やかな黒髪を揺らす女生徒が、朗らかに答えた。
その女生徒の反応に、作業をしていた他の生徒会役員達も正宗の方へ意識を向けた。
・・・・・・誰一人として勇人と正宗のやり取りを聞いていなかった。
「お前らな・・・・・・」
勇人を絞める腕とは反対側の指で、眉間を押さえる正宗。
そんな疲れた顔をする正宗に、苦笑する黒髪女生徒。
「まだ時間も日もあるんだから、そんなに急いで片付ける必要は無いのよ?」
「だからって、このまま遊ばせてたら一生終らねぇだろうが・・・・・・」
「大丈夫よ」
「何で言い切れる?」
「片付かない分は勇人君にやらせるから」
なんて、良い笑顔で言う黒髪女生徒副会長殿に勇人は「ゑ?」と間の抜けた声を出して、自身の首を絞める正宗の腕をタップしていた手を止めた。
溜まりに溜まった書類が積まれている、自分の生徒会長の席に視線を向ける。
「マジ?」
「真剣で本気よ」
引き攣った笑みを見せる生徒会長に、聖母のような微笑みを見せる副会長。
勇人がこの書類の山をいったい誰に押し付けてやろうかと諦めの悪い事を考えていると、勢いよく生徒会室の扉が開かれた。
「大変です!」
入って来たのは小柄な女生徒。
小柄で可愛げな容姿をしているが、妙に気が強そうなツリ目とツインテールが印象的なその少女には、見覚えがあった。
風紀委員会に所属している少女だ。
「何だ?」
「体育館裏で、ボクシング部とムエタイ部が『どっちが立ち技最強の格闘技』かでモメて喧嘩を! 相撲部と軍隊格闘研究会も乱入して手が付けられません‼」
「また面倒な喧嘩始めてんな・・・・・・」
今朝も柔道部とレスリング部の喧嘩を止めたというのに、また暑苦しそうな部が喧嘩を始めてウンザリする神爪勇人。
だがこれはチャンスだ。
その喧嘩の仲裁に向かえば、この机に山積みにされている書類を誰かに押し付けて――――――
「俺が行く。勇人、逃げるなよ」
――――――行こうとしたが、無情にも副会長正宗に先を越された。
ジロリとガンつけられて、渋々勇人は席に着いて仕事に戻る事にした。
終わらせないと後が怖い。
「つーか、風紀委員が生徒会に助力を請いに来るって、マジで人手が足りてねぇな」
「仕方ない事だけどね」
生徒会や委員会は常に人手不足だ。
特に、新学期初日のこの時期は。
まだ新一年生の枠が足りないからである。
一応成績優秀者や、一部の能力に長けた生徒は入学前から各委員会や生徒会の勧誘があるのだが、あくまで勧誘で強制的なモノではない。
だから断られることも多く、今年の生徒会には新入りは入って来ていない。
元々、今の生徒会は会長である勇人が、自分の身近な生徒しか生徒会に積極的に入れようとしていないからというのも理由だが。
「やっぱ、誰か勧誘した方がいいよなぁ・・・・・・・・・」
「そうねぇ」
勇人の言葉に、黒髪副会長は此処生徒会室で作業中の役員と、校内で活動している残りの役員の顔を思い浮かべる。
みんな勇人や自分と同じ高等部1年、もしくは中等部の子が少し。
自分達よりも上の学年の生徒は存在しない。
年々学園は騒がしくなり、良くも悪くも忙しい。
来年か再来年には校舎を増築し、入学者の人数を増やそうとしているという話もある。
そうなったら、今まで以上に忙しくなる事は目に視えている。
手は早い内に打っておいた方が良い。
「先生や部活連の方から何人か推薦してもらう?」
一般募集とは別に、委員会には推薦というものがある。
生徒会からの推薦と、教職員からの推薦と、部活連からの推薦の3つだ。
毎年各委員会には、生徒会と教職員と部活連から推薦した生徒が加入しており、一般を含めて最低3人は毎年人員を確保している。
そういった制度が存在しているのは、人手不足を補うためだ。
だが、生徒会にはそういった制度は無い。
基本的に生徒会は、生徒会長を主として動いており、仕事に支障が無ければその人員の構成は生徒会長に一任される。
今の生徒会の役職は、生徒会長が1名、副会長が2名、会計が1名、書記が1名、その他が庶務に属している。
そして生徒会は現在、所属が2つに分かれている。
今現在この生徒会室で事務仕事をしている本部と、校内の問題を解決しに動いている執行部。
この2つで、生徒会は成り立っている。
このような特殊な形態を取っているのは、総生徒数3900人という数に対応する為。
先程、副会長である正宗が現場へ向かったように、本部の人間が向かう事もあるが基本的にそれは執行部の仕事だ。
机に積まれている書類を見てもわかる通り、本部にも執行部にも人手が足りない。
「確かに、最低でも2人は欲しいよなぁ」
黒髪副会長の言葉に頷く生徒会長。
本部に1人、執行部に1人。
出来れば5、6人も入れば上等なのだが、流石にそれは高望みしすぎだろう。
「けど、ま、それは止めとく」
「言うと思った」
やれやれと嘆息する黒髪副会長。
この二人は、幼い頃からの付き合いだ。
いや、生徒会に所属する大半が、勇人と付き合いのある者達で構成されており、皆、勇人の性格は把握している。
確かに人手が足りない。
だが神爪勇人という男は、基本的に自分で勧誘しなくては気が済まないのだ。
それが一緒に行動していく仲間なら尚更だ。
信用できる奴、信頼できる奴、面白い奴、気に入った奴、興味を持った奴・・・・・・勧誘する理由は様々だが、その辺はやはり自分で判断したい。
今の生徒会に所属する生徒も、そうやって勧誘して来たのだから。
「今更、そのやり方を曲げる気はねぇよ」
「そう」
クールな笑みを浮かべてそう言った勇人に、黒髪副会長は菩薩の様な笑みを浮かべた。
「けど、そうなると忙しいのは変わらないのよねぇ。こうなったら、もう勇人君の仕事の量を増やすしかないわ」
「え?」
「勇人君のやり方で人手が足りていないのだから、勇人君がその責任を取るべきでしょう?」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ダッ‼と、窓へ駆け出す勇人。
ビュン‼と黒髪副会長は手を振った。
ビシィッ‼と、黒くて細いモノが勇人の足に絡まる。
手が窓に触れかけたが足を取られてバランスを崩し、窓の淵にビタァンッ‼と大きな音を発てながら勇人は顔面をぶつけて転んだ。
ジタバタしながら顔の痛みに悶えている。
勇人の足を絡め取ったモノ、それは鞭だ。
一体どこから取り出したのか、何時の間にか手に握った鞭を振るって勇人をこけさせたのだ。
「何しやがる・・・・・・・」
「勇人君が逃げようとするからでしょ」
「見ろよあの書類の山を、あんなの見たら俺様でも逃げたくなるわっ‼」
「逃げても仕事の量は減らないわよ? むしろ増える一方なのだけれど?」
「いや、分かってるさ。だから、アレだ、ホラ、ちょっと息抜きしに・・・・・・・・」
「さっきゲームやってたんだから充分でしょ。さ、仕事に戻りましょう」
「待て落ち着け冷静になって考えろあんな量の書類に目を通して判子押して文字を書いたりしてみろよ腱鞘炎になったりするかもしれんだろうつか何で今の時代でまだ書類なんだよいい加減電子なり魔術なりで進めろよだから時間と手間がかかるんだよクソメンドクセェだから一旦仕事から離れて落ち着k――」
尚も長々と言い訳を続ける勇人の襟首を掴みズルズルと引き摺って、黒髪副会長は勇人を生徒会長の椅子に座らせて仕事をさせる。
そんな彼らのやり取りを、他の役員達は特に気にも留めずに仕事を続けていた。
仕事が忙しいというのも理由だが、それ以上に今の様な出来事は此処では日常茶飯事だ。
一々ツッコんでいられない。
軽く嘆息しながら、生徒会役員は仕事を続ける。
手を止めていたら、いつまで経っても仕事が終わらないからだ。




