第22話 エロスと変態
「あー・・・気持ちいいー・・・・・・」
スポーツテスト終了後、主に運動部が使っているシャワー室を縁寿達も使う事となり、僅かに掻いた汗を洗い流していた。
熱いシャワーを学校で浴びることが出来るとは思っていなかったので、縁寿にとって凄まじく僥倖であった。
いくら高性能な体操服を着ていたからといっても、全力で走って持久走までしたのに、全くと言っていいほど疲れていない。
コレも『存在更新』して基礎体力が上がっている為だろう。
身体的な疲労は無いが、何やらとても精神的に疲れてしまったのだ。
シャワーの熱さが心地良く、午前中だけで随分蓄積された疲労を洗い流してくれる。
体力測定が終わり、後は教室で終礼して、今日の授業は終わりだ。
もっとも、その後にはイベントが控えているのだが・・・・・・。
縁寿はシャワーを浴びながら徐に『魔道書』を具現化させた。
書物の形をしてはいるが、その材質はあくまで魔力である為、シャワーが当たっても濡れる事は無い。
手触りは紙なのにと不思議な感覚を味わいつつ、縁寿はページを捲り先程まで行っていたスポーツテストの結果を改めて確認してみる。
握力:65kg
長座体前屈:65cm
上体起こし:40回
立ち幅跳び:312cm
50m走:5.8秒
反復横跳び:71回
ハンドボール投げ:49m
持久走(1500m):3分37秒
「やっぱ何度も見ても高校一年女子の数値じゃないでしょコレ・・・・・・」
立ち幅跳びや50m走もそうだが、特に持久走だ。
1500m走り終わっても息切れは殆どしておらず、これならもっと早く走ってタイムを短縮することも可能だろう。
身体強化系の魔法を使った訳では無く、縁寿自身特別身体能力が優れていた訳でも運動神経が超人なんて事は無い。
そんな極普通の一介の女学生がこれだけの数値を叩き出したのだ。
『存在更新』され、一般人である『第零階梯』から『第一階梯』へと『位階昇格』する事の凄まじさが良く分かる。
一説では「人類が次の段階へと進化する手段」と言われているのも否定出来ない。
異世界の技術というモノは人間という種を更に上の次元へと引き上げるが、アウストラロピテクスを駆逐したホモサピエンスの様に、いずれ一般的地球人である『第零階梯』は異世界人である『第一階梯』以上の存在に駆逐されるのではないかと唱える学者もいる。
便利で強力で凄まじい異世界技術だが、危険視する地球人も一定数存在する為、未だにこの異世界技術の恩恵を受けられる地球人は限られている。
縁寿達が通っている此処『鳳凰学園』がその一つであり、そんな異世界技術の恩恵を受けられる場所でこれから生活する事にワクワクする気持ちが止められない。
・・・・・・それでも先程の様な、見るからに危険そうな目には遭いたくないが。
「てか、アレなんだったんだろ」
「んー、何が?」
思わず呟いた言葉を聞き取った黄昏都古が、同じくシャワーを浴びながら隣の仕切り越しから声をかけてきた。
縁寿は「ほら」と、先程の光景を思い出す。
「あの黒い靄が出た後、何か空からビームみたいなのが降って来たじゃない?」
上空からビームの様な閃光が降り注ぎ、そして多重の魔法陣が展開され、担任である山吹教師の(恐らく)自身の魔法である音の力で弱らせ、ハルート・ジ・ライトロードが封印した先程の騒動。
あのビームの出所はいったい何処なのか?
縁寿の疑問に都古は「ああ」と、自身の推測を確信を持って答える。
「たぶん勇人君だよ」
「神爪君が? あの場に居たの?」
都古の言葉通りなら、神爪勇人は生徒会長として午後から行われるイベントの準備をしている筈だ。
騒動が起きたあの近辺に居たという事だろうか。
「じゃなくて、アレだけ大きな気配が溢れてたら校舎の中にいても誰だって気付くよ」
「いや、気配とか言われても・・・・・・」
そんな武術の達人のような真似を、いくら『位階昇格』して『第一階梯』になったからといって出来る筈もない。
にも拘らず、まるで出来て当たり前みたいな言い方をする都古は「ああ、そっか」と何やら勝手に納得して話を続ける。
「要するに、気配を感じた勇人君が、校舎から魔術を放ったって事」
「気配感じて魔術をそんな離れた所から遠隔操作とか、何でも有りねアイツ・・・・・・」
『魔法』なら、能力の内容によってはそういった事が容易に可能なものもあるだろう。
しかし『魔術』には技術と知識が必要不可欠だ。
MD―――『魔術式補助演算端末機』を使っても、多くの人が使っている持ち運び可能な携帯汎用型では難しい。
相応の性能を持つ専門機器なら可能なのだろうが、神爪勇人が『魔術式補助演算端末機』を持っていない『魔導師』である事を考慮するに、MDの機能を用いずに自分の技量だけであの魔術を扱ったと考えられる。
遠距離で魔術を起動する発射地点の設定、射撃系統の魔術による連続攻撃、それを発動後に霧散させることなく遠隔操作し、封印式の魔法陣の発動と、軽く見てもこれだけの事をやってのけたのだ。
魔術の知識が疎いものからすれば何が凄いのか今一つ伝わりにくいが、知識をある程度持つ縁寿にとっては驚愕である。
もっとも普段なら驚くほどの出来事でも、この2日間に色々あり過ぎて感覚が麻痺してきている縁寿は、生徒会長のスペックの高さに驚きを通り越して呆れの声が漏れた訳だが。
「――――――ひゃあっ!?」
「うん?」
シャワーを止めて出ようかとしたところで、そんな艶めかしい声が何処かから漏れた。
シャワーブースの仕切りから顔を覗かせてみると、更衣室へと続く扉の前で、2人の女生徒が何やら全裸で絡み合っている。
1人はエルフだ。
腰まで伸びた翠色の長髪に新雪のような白い肌、そして何より眼を惹くほどの整った顔立ちとスタイル、長い耳が特徴的な女子。
もう1人は悪魔だ。
縁寿よりも色素が薄い桃色のフワリとした太腿まで伸びる長髪、背中から生えている蝙蝠を思わせる黒い翼に、臀部辺りから伸びる黒い尻尾。
そして縁寿が思わず自分のサイズと見比べてしまいそうになる大きな胸部に、抜群のボディスタイル。
そんなエルフと悪魔がくんずほぐれつな状態だった。
「ちょ、待っ、えぇい、何なのだ貴様はッ!?」
「そんなに恥ずかしがらなくても良ーじゃなーい。ちょっとしたスキンシップだよー?」
否、悪魔が一方的に後ろからエルフの胸部を揉みしだき、襲っていた。
悪魔のその細い手が、張りのあるエルフの雪の様な白い柔肌を蹂躙する。
大きくも小さくもない胸部、細い腹部、張りのある臀部から更には太腿までなぞる様に指が通り、その指はエルフの太腿の内側へと――――――
「――――――ま、待て貴様! 何処を触ろうとしている!?」
「んー・・・・・・何処だと思う?」
「ひぃっ!? お、おい! 誰か助けろ‼」
その指が自身の内股にまで伸びて秘所に触れた処で本気で身の危険を感じたのか、ゾワリと背筋を凍らせたエルフが半泣きで周囲に助けを求めた。
どうした方がいいのか周りを見渡す縁寿。
直ぐ傍にいる都古は苦笑したまま動く気は無く、腰まで伸びた茶髪の娘は我関せずで自身の濡れた髪をタオルで拭いており、赤毛ポニーテールの娘は巻き込まれないよう距離を取り、猫の獣人の娘が自身も参加しようとウキウキ顔で近寄ろうとするが、良からぬ気配を感じ取ったらしい勝気そうな黒髪ショートの娘が猫娘の尻尾を掴んで動きを止める。
大人しそうな意外と胸が大きい童顔で栗色ショートボブの娘がオロオロとして、濡れた身体のまま「くっ、何処かに穴は開いてないものかしら?」と男子シャワー室を覗こうと壁を這いずり回る佐々木理恵の姿を見なかった事にしたところで、縁寿は首を傾げた。
高等部は一クラス辺り30人で男女其々15人いるのだが、今この場には自分を含めても11人しかいない。
先程のスポーツテストまでは男子も入れてそれなりに人数がいたからあまり気にならなかったが、男女に別れてシャワー室を利用する今になって気づく。
15人中4人いないというのは、ちょっと人数が少ないのではないだろうか?
都古から生徒会のメンバーは午後から行われるイベントの準備でこの場にいない事は聞いているが、一クラスに在籍している人数にしては生徒会役員が多い様な気がする。
流石にこの場にいない生徒全員が生徒会に所属という訳では無いのだろうが、それでも男女含めていない人数が多い。
集団インフルエンザに罹った訳でもあるまいに。
(またなんかキャラの濃い理由でもあるのかなー・・・・・・)
先程の厨二的な男子生徒の様な。
そんな思考が頭を過った時、
「ひゃんっ!?」
急に悪魔っ娘が喘ぎ、身悶えた。
身体をビクンビクンと震わせ甘い声を漏らしながら身を捩るその様は非常に色っぽく、同性の縁寿でも思わず赤面してしまう。
「はーい、リリム、そこまでね」
何故急に身悶え出したのか、その疑問は直ぐに解かれた。
悪魔っ娘――――――リリムと呼ばれた女生徒の直ぐ真後ろに、彼女の尻尾を掴む少女がいた。
小柄な少女だ。
150cmにも満たない小柄な体格、眠たげな眼と雪の様に白い髪、そしてその背には・・・・・・黒に近い灰色の翼が生えていた。
人間ではない。
翼を持つが、それ以外は人間と変わらない容姿をしている為、鳥類の獣人でもなさそうだ。
となると、
「堕天使?」
白い翼は天使の特徴だ。
だが天使が堕ちると純潔さが失われ、翼の色が濁ると言われている。
その黒く汚れたように見える灰色の翼は、堕天使の特徴だ。
「まったく、真面目そうな娘と大人しそうな娘を見ると直ぐにちょっかい掛けに行くんだから・・・・・・ホント、リリムはエロエロね」
天使の様に愛くるしい容姿に、小悪魔が嘲笑う様な黒い笑み。
イヤらしい手つきで指を動かしながらリリムの臀部から伸びる黒い尻尾を上下に擦っていく。
コスコスとその細く小さな手で扱き、尻尾の先端を捏ね繰り回す。
「ちょっ、まっ、ライラちゃんらめえぇぇ~‼ グリグリしないでえぇぇぇぇ~ん‼」
見た目幼女なロリっ娘堕天使――――――ライラと呼ばれた少女がその手で尻尾を擦りながら捏ね繰り回す度に、リリムが甘い吐息を漏らしながら身を捩る。
その淫卑な様に、遠巻きに見ていた縁寿達は「うわぁ」と赤面していた頬を更に赤くする。
何も知らない他者がみれば熱中症かと疑いたくなるほどに。
リリムの絶頂する喘ぎ声が、シャワー室に木霊した。
◆◆◆
「むむむ!?」
キラリと眼鏡を逆光させるは、鳳凰学園へ入学したばかりにも拘らず既に変態としての地位を確立しているクソ野郎こと山田川 光二郎。
ニュータイプの様な閃きと超戦士が如き素早さをもって壁際に移動し、壁に張り付きながら動き回る。
「何やってんだお前」
「そうやってカサカサ動いてるとゴキブリみてぇだぞ」
ツンツン頭とニット帽を被っていたオールバックの男子生徒を始めとしたクラスメイト達の不審な目なんて何のその、シャワーで濡れた身体を拭きもせずに全裸でビチャビチャと壁を這いずり回る。
控えめに言っても気持ち悪い。
マジキメェと、高校生活が始まって僅かな日数でクラスの男たちの心はほぼ一つになった。
スポーツテストで掻いた汗をシャワーで流してスッキリとした気分になっていたのに台無しである。
そんなクラスメイトから苦言の声が上がるが、変態は「静かにしろ!」と吼えた。
「お前等には聞こえないのかっ‼」
「何が?」
「この壁の向こうには何がある!?」
「あ?」
言われて男たちは考える。
この男子シャワー室の隣は・・・・・・女子シャワー室である。
「そうだよ! この壁の向こうには女子がいんだよ‼ それも・・・・・・全裸でだ‼‼」
「「「「「ッ!?」」」」」
男たちは息を呑む。
この壁の向こうには・・・・・・全裸の女子がいる!?
「いや、そりゃそうだろ。シャワー浴びてんだから」
ツンツン頭が何を当然のことをと首を捻り、他の男子達も頷く。
当たり前のことを何を声高らかにシャウトしているのか。
そんな鈍いクラスメイトに変態は「分かってねぇな」とデカい溜息を吐いた。
「この薄壁一枚の向こうに、女の裸体があるんだぞ!? しかもこの学園の女子は総じてレベルが高い! そんな美少女が今‼ 全裸で‼ この向こう側にいるんだぞ!?」
「いや、確かに壁一枚だが薄くはないぞ」
異様にテンションの高い変態に、この学園の施設の構造を知っている内部生であるニット帽を被っていた男が呆れたツッコミを入れるが、変態には効果が薄い。
「俺には聞こえる・・・・・・今、この壁の向こうで、何が起きたのかは知らんが、美少女達がくんずほぐれつな状態になっている喘ぎ声が‼」
「此処の壁そこそこ厚い上に音も遮断してんだから気のせいだろ。向こうのシャワーの音だって聞こえねぇんだから」
「くっそー! 俺に透視の魔眼でもあれば‼」
「いや、学園施設は対魔術処理も施されてるから、どのみち壁を透視とか出来ねぇ・・・・・・って聞いちゃいねぇ」
変態は諦め悪く壁を這いずり回る。
「穴は! どっかに穴開いてねぇか!?」と必死に探し回るが、そんなものは見当たらない。
そんなゴキブリのような動きをする変態に「アホくせぇ」と男達はシャワー室から切り上げる。
「ぐぬぬ」と諦め悪く壁に這いずるが、やはり壁に穴なんて見当たらない。
「はっ! そうだ更衣室なら‼」
「ねぇよ」
変態はクラスメイトに首根っこを引っ張られるまで諦め悪く無駄な足掻きを続けるのであった。




