第20話 スポーツテストの説明
校舎内の設備を見て回り、最後に向かったのは運動場。
敷地の広い鳳凰学園には屋外競技に使われる数だけ運動場が存在するが、やって来たのは陸上競技で使う屋外施設。
本日は最後に体力測定を行って、午前中に授業は終わる。
男女に別れて更衣室で体操着に着替え、各々身体を解したりと測定の準備に掛かる。
慣れた動きでストレッチをする内部生を他所に、縁寿を始めとした一部の外部生は落ち着きなく測定が始まるのを待っていた。
というのも、今身に付けている体操服が原因である。
鳳凰学園で使われている体操服は、他の一般的な学校と同じく学年毎に区別が付きやすいように色分けされており、今年の高等部一年は青色が体操着に使われていた。
ウェアは白地に所々青色が彩られており、パンツはほぼ青色。
それは良い、別に良いのだ。
縁寿達が落ち着かない理由は、別に体操着の色合いに問題があるからではない。
問題なのは、この体型がダイレクトに出てしまうピッチリとした体操服そのものである。
上下共にハーフとロングの2種類が存在するが、今日は暖かい気候な為半袖半パンでいいかと気軽に考えて着てみたのだが、思いの外生地が薄い。
自分が今、ちゃんと衣服を身に纏っているのか不安になるほどのフィット感と軽量さ。
重さを全くと言って良いほど感じないのだ。
これは制服も含めてだが、鳳凰学園の体操服には魔術が施されており、身の回りや装着者の体温調節、衣類の伸縮性や丈夫さも通常の物よりも高い数値を誇り、更には多少の損傷は自動で修復し、通気性や快適性も抜群で防臭効果も高く、運動時の身体の疲労軽減や回復までしてしまう。
オマケに洗濯で汚れも落ちやすくてコストもそこまでお高くないという、コンプレッションウェアも顔負けの性能だ。
此処までスペックの高い衣服などそうは無く、性能面に関しては文句のつけようもないのだが、やはり身体のラインがクッキリと見えるこの衣服は如何なものか。
ある意味、肌を露出させるよりも気恥ずかしいかもしれない。
「どうしたの、縁寿ちゃん?」
「いや、どうしたも何も・・・・・・」
身体を腕で隠す様に捩る縁寿に、都古は「ああ」と察した。
「大丈夫大丈夫、恥ずかしいの最初だけだから。直ぐに慣れるよ」
「・・・・・・まぁ、確かにみんな気にしてないみたいだけど」
恥じらっているのは縁寿達外部生だけで、中等部から上がって来た内部生は気にしていない。
男子でも股間やら腹部の脂肪などの膨らみ具合を気にしているのは外部生だけで、内部生は気にしてもいない。
「ぐふっ。いいわ、いいじゃない、別に制服越しでもサイズが分かるけど! よりクッキリ見えるに越した事はないじゃない!? 見える! 観える‼ 視える‼‼ そのナニが‼ ゴールデンボールがああぁぁぁぁぁっ‼‼‼」
「見ろ! 観ろ‼ 視ろ‼‼ 否、見るのではない、感じるんだ俺の魂‼ ピッチリラインのそのボデー‼ むっちりボイン‼ 髪を纏め上げて覗くうなじ‼ 脇の形‼ エロい腰つき‼ 形の分かるケツ‼ 生足太腿‼ 両足の間から見える股の隙間ああぁぁぁぁぁぁっ‼‼‼」
一部の『山田川光二郎と佐々木理恵』を除いて。
両目が充血する程見開き凝視し、鼻息を荒く吹き出し、発情した獣の如き様を見せる2人の外部生に、周囲の生徒達はドン引きする。
2人は「ハァハァ」と息を荒くし、そしてその眼鏡が罅割れ、今朝同様再び弾け飛ぶ。
鼻血の噴射と共に錐揉み状に吹っ飛び、2人は地に頭から倒れた。
「だから何で眼鏡割れるのよ・・・・・・」
満足そうな顔で気絶する2人に呆れた目を向ける生徒達。
「それじゃ、今日は最後に体力測定―――運動能力テストを行う」
そして何事も無かったかのように話を進める高等部1年A組担任の山吹教師。
生徒が(鼻)血を撒き散らしてぶっ倒れる程度で狼狽えては、此処の教師は務まらない。
個性豊かな生徒達との学園生活で揉まれてきた教師は、この程度では動じないのだ。
「項目は握力・長座体前屈・上体起こし・立ち幅跳び・50m走・反復横跳び・ハンドボール投げ・持久走の8項目だ。外部生でも小中学生の頃にもやっただろうが・・・・・・異世界人もいるし、この学校での運動能力テストについて説明するぞ」
運動能力テストとは、文部科学省体育局が定めた、国民の運動能力を調査するために実施する「体力・運動能力調査」の通称。
物を握る力を測る『握力』、太腿の裏側と腰部分の柔軟性を測る『長座体前屈』、腹筋の連続運動する筋持久力を測る『上体起こし』、跳躍力を測る『立ち幅跳び』、短距離をいかに短い時間で走り抜けられるかを測る『50m走』、敏捷性を測る『反復横跳び』、物を遠くに投げる力を測る『ハンドボール投げ』、長距離をいかに早く駆けられるかの体力と走力を測る『持久走』。
この8つの運動能力を測るのだ。
「と、まぁこれだけならただのスポーツテストなんだが、この学校ではこのスポーツテストに『魔法』を使ってもいい。というか、項目に使える魔法があるんならガンガン使ってくれ」
ざわつく外部生に、山吹桔梗は説明を続ける。
『魔法』なんてモノが地球に出て来てまだ20年程で、その種類は様々だ。
中には身体能力に直接結びつく魔法も存在する。
スポーツテストは魔法無しで計測するのが今でも現代社会の主流のやり方で、魔法には任意で発動出来るものが大半だが、偶に常時発動する類のモノも存在するのだ。
ON・OFFの切り替えが出来ない魔法を持って生まれた人はスポーツテストの計測が出来ない、なんて子共が年々微々たる上昇傾向ではあるが増えてきている。
未だに画一的な魔法と運動能力の計測方法が存在していないが、行政機関も色々試行錯誤しているらしく、魔法有りのスポーツテストを行い計測する方法が一部で行われている。
世間一般的にはまだ行われておらず、一部で行われた計測結果を鑑みて、このままの方法で行くのか、それとも西暦2000年前後で改定されたように一部、あるいは大幅に変更するのかを検討するのだという。
「そもそも人も社会も魔法によって大きく変わってきてるのに、魔法無しの頃の方法で測ろうとしているのがどうかと思うが。とにかく魔法を使ってもOKだから、項目によって使える魔法がある奴は使っていって構わん。あくまで自分の能力を測るのが目的だからな。魔法にまだ慣れていない奴は、この場で色々試しておけ。中等部から上がって来た内部生は、中学の記録の上塗りを目指せ」
魔法によっては、簡単に他人に危害を与えてしまうものもある。
この学園にきて初めて魔法が発現した人は、魔法の制御が出来ず、暴発することもある。
公の場でそんなことが起これば、場合によっては酷い被害を出しかねない。
そんなことが起こさない様にする為に魔法の使い方を学ぶのも、この学園の特色でもある。
この場で魔法の制御不能に陥った場合、それを収めるのもこの場にいる教師の仕事なのだ。
「最初は握力測定だな、出席番号順で始めるぞ。」
山吹桔梗はその手に持つ液晶タブレットでクラスの名前を確認し、用意してあった測定器を手渡した。
「出席番号1番、天使縁寿。早速始めてくれ」




