第18話 身体検査
「一度『身体検査』で『存在更新』すると、後は『経験値』を積めば自動で『魔道書』に記されるから、自分の『自己能力』が気になればいつでも見れるよ」
言って都古が、何も持っていないその手から本を出したり消したりしている。
『魔道書』は自身の魔力で形作られたモノ。
魔力を使い過ぎて精神疲弊にでもならない限り、いつでも自分の意志で自由に現出出来る。
縁寿も都古の助言通りにやってみると、意識するだけで『魔道書』を出したり引っ込めたり出来た。
これだけでも魔法を使ってる気分になる。
「・・・・・・でも『魔道書』が自動的に『存在更新』するなら、内部生が『身体検査』を受ける意味ってあったの?」
『魔道書』にはRPGの様な『自己能力』だけでなく、身長や体重といった普通の身体検査の結果も載っているが、それらも成長等の変化があれば自動で更新される。
それなのにワザワザ外部生と共に『身体検査』を受けた訳とは何なのかと問うと、都古は「ああ」と、説明する。
「私達が自分で視る分には何も問題無いんだけど、学校側が学生の個人情報を記録する為に、定期的に『身体検査』で情報を読み取ってるんだよ」
具体的には学期の始まりと終わり辺りに。
病気に罹っているかなどの情報も『魔道書』には記載されており、『自己能力』も進学や就職などの参考に使われる。
後は学生が犯罪を犯した時などで、警察などに情報が行き渡りやすくするため等々。
そういった様々な理由で、学校側が学生の情報を管理・保存しているのだそうだ。
縁寿が都古の説明に「なるほどねー」と納得して、『身体検査』を終えて立ち去る体育館を振り返る。
「ていうか、男女別に分ける必要あったの?」
通常の身体検査なら、身体の記録を読み上げられたり、場合によっては服を脱いだりするからまだ分かる。
だが、この『身体検査』は魔法陣の上に乗っただけだ。
身体情報も『魔道書』に記載されるから、横から覗き見でもしない限り、知られる事なんて無いだろう。
男女別に分ける必要性はあるのかと首を傾げた所で、都古がまた解説を入れてくれる。
「偶に女子が『魔道書』を開いたところで男子が覗き見てくるから、その配慮だったと思うよ」
「あ、そなの」
初めての『身体検査』で興奮して、直ぐ様『魔道書』で中身を確認するのは珍しくない。
そこで女子の『魔道書』に書かれている個人情報を盗み見る男子がかつて存在したとかなんとか。
理由としては割と当たり前でありきたりだった。
そんな都古の解説を聞いたのか、縁寿達を後ろから通り過ぎて行き、1人の男子生徒が舌打ちした。
山田川 光二郎・・・・・・『Cカップ以上でなければおっぱいとは認めねぇ』の言を発した女の敵だった。
何かブツブツ言っている。
「チィッ・・・いくら俺が服の上からでも女子のスリーサイズが見抜けるからとはいえ、何て口惜しい! 眼で視た感覚じゃなくて数字で知りたい! 体重とか足のサイズとか知りたいッ‼ つか身体検査なんだから服脱げよ何で脱がねぇんだよ生で覗けねぇだろうがクソがッ‼」
「クソはアンタよ」
そんな呟きが聞こえてきた縁寿は、光二郎をゴキブリを視るような目を向けるのだった。
そして「そう言えば」と、担任である山吹桔梗先生の学校案内に従いながら周囲にいるクラスメイトを見渡す。
「神爪君もそうだけど、何人かいなくない?」
1クラスの人数は30人の筈だが、少し足りない。
朝のホームルーム前に挨拶周りしたクラスメイトの顔を、神爪勇人を含めて何人か見かけない。
「休んでる人もいるけど、勇人君達は生徒会に所属してるからだね」
「・・・・・・生徒会に入ってると授業免除とかされるの?」
「そういう時もあるけど、基本的に中等部・高等部の校舎を問わずに活動してるから校舎内は把握してるし、居てもあんまり意味無いって思ったんじゃないかな。生徒会、今日は午後から忙しくなるし、その準備に追われてるのかも」
「準備っていうと・・・・・・」
都古の言葉に、縁寿には思い当たることがある。
午後からあるイベントの事だ。
その準備に追われているなら頷ける。
「てか、あの人達生徒会だったのね」
昨日の食堂騒ぎの時にはいなかった面子だった。
アレが全員ではなかったようだが、生徒会とはそんなに人数が多い組織だったろうか?