第14話 神爪勇人VS藤村友紀
「防護鎧衣【戦士】、装着‼」
友紀の声に、ブレスレットの形状をした『魔術式補助演算端末機』(正確にはウェアラブル・マギカ・デバイスというMDの一種)の音声入力装置が反応する。
ブレスレットから光が溢れ出し、友紀を包み込んだ。
そんな光が、突然弾け飛ぶ。
その中から、先程とは姿が変わった友紀が現れた。
先程まで着ていた、鳳凰学園高等部の女子が着ているブレザーの制服ではなく、黒インナーの上に鎧を身に付けた戦士のような格好だ。
鎧といっても全身を覆って動きにくそうなものじゃなく、胸部分や腰元、小手や脛部分に防具を纏った、動きやすい軽装なデザイン。
【防護鎧衣】
魔力を宿した繊維や鉱石で構成される、魔術や錬金術で作られた防護服。
これも一種の魔術によって作られた戦武装機であり、大気や温度等の劣悪な環境だけでなく、魔法や物理的な衝撃などからも着用者を保護する。
魔術式補助演算端末機を製造する会社が製作している衣服であり、商品。
着用者の身を護るだけでなく、身体能力を全体的に向上させる魔術も備えている。
「ようやく本気か。ま、結果は変わらねぇと思うがな」
「どうかな? これでも春休みの間にかなり鍛えてきた。先月までの私とは思わないことだ」
「俺様も、中等部の頃と同じと思うなよ?」
不敵に笑う二人が対峙し、視線が交差する。
先程と同じ状況の、仕切り直し。
だが先程とは変わり、先に仕掛けたのは友紀だった。
防護鎧衣の力で上昇した運動能力に任せて、一足飛びで勇人に接近し、剣の切っ先でその身を貫かんばかりの勢いで突き出す。
その一撃を、勇人は一歩横に移動することで回避するが、友紀は突き出した剣を水平に傾けて、今度は横に一閃する。
突きから胴薙ぎの連撃だが、それも勇人が一歩後ろに下がったことで避けられる。
そして勇人は空振りに終わった剣を視て、呆れ顔で友紀に視線を移した。
「お前、それ【高周波振動剣】じゃねぇか。安全装置外してやるもんじゃねーだろ、マジに殺す気か?」
【高周波振動剣】
それは、主にSF作品で登場する武器。
振動剣の刀身は超高速で振動し、この振動によって物体を切削するため、通常の刃物を遥かに超える威力を持つとされている。
魔術によって剣の刀身を高速振動させて、接触物を切り裂くこの剣に当たってしまったら、流石に勇人も怪我では済まない。
全てのMDには、魔術によって人体へ与えるダメージが一定を超えると精神ダメージに変換させる安全装置が搭載されているが、その装置を外されれば気を抜けなくなる。
人間の身体など簡単に両断してしまうのだから。
殺人事件が起こってしまう。
「いや、お前なら大丈夫だろ。殺しても死なないだろうしな」
「いや、普通に死ねるわ」
真顔で言ってのける友紀に、勇人は嘆息する。
この上級生は下級生の自分の事を何だと思っているのか、わりと本気で疑問だ。
勇人がそんな疑問を抱いていても、友紀は攻撃の手を休めない。
グラウンドを縦横無尽に高速で動き回り、目にも止まらぬ速さで剣を振るう。
だが勇人はその斬撃を目で捉えており、避けることは勿論、刀身の腹を殴り刃に触れないように斬撃を反らす事も出来る。
それでも先程と比べて友紀の動きにはキレがあり、手こずるようになってきた。
「そろそろ俺様も攻めていいよな?」
受けの状態でいた勇人が、攻勢に出る。
勇人の周囲に百以上の数の光球が突如、宙に出現した。
その光球は魔力で出来ており、作り出された光球は弾丸となって友紀に襲い掛かる。
【魔弾の射手】
魔力を弾丸にして放つ、射撃魔術。
攻撃魔術の中でも最も基本的な魔術で、それを使う術者も決して珍しくはない。
問題なのはその魔弾の数。
魔弾の射手は、術者の魔力の操作・制御の力が上がるに従って同時に発射出来る本数も増えて、それに伴って威力も増大する。
並の術者なら、一度に並列精製出来る魔弾の数は多くても十数個程度。
勇人が作り出した魔弾の数は、その十倍である百以上。
それは、勇人の位階の高さをそのまま現していると言っていい。
だが、それは友紀も同じ。
襲い掛かる弾丸の雨を、その剣で弾き、または避けて攻撃を凌いでいる。
そして勇人の攻撃を捌きつつ、友紀も攻撃を与える。
【衝撃魔波】
肉体ないし武器に魔力を帯びさせ放出し、魔力の衝撃波を飛ばして攻撃する。
友紀の衝撃波を避けながら弾丸を射出する度、勇人はすぐさま新たな魔力弾を精製し、再び機関銃が如く連続射出する。
その流れが続き、再び戦況は膠着した。