第12話 1VS2
「相変わらず器用に動くというか、足癖が悪いというか・・・・・・」
逆立ちで回転していた身体の動きを止めて、足を地に付けて起き上がる勇人に、友紀は呆れながら嘆息する。
あれだけ激しくクルクルと回っていたのに、とくに目を回した様子などは視られない。
涼しげな顔で剣を構える友紀と、空から見下ろすテリーサを一瞥し、勇人は二人に対し指を立ててチョイチョイと動かした。
かかって来いと言わんばかりに、余裕の表情で。
挑発としては安いが、沸点の低いこの二人には効き目があったようで、額に青筋が浮かぶ。
その挑発に真っ先に応えたのは、テリーサ・フェネクス。
上空から、攻撃を読ませない無軌道な動きで急降下する。
猛スピードで迫ってくるが、勇人の表情に変化はない。
相変わらずの不敵なその様が、テリーサの神経を逆撫する。
それを理解しながらやっているだけに、神爪勇人という男は性質が悪い。
怒りを力に変えるという、実に分かりやすい性格をしているテリーサは、その感情の赴くまま勇人に肉薄する。
全身を燃やしながら迫る彼女は、炎の塊。
炎弾という表現が相応しい。
無軌道でその迫り来る炎弾を、完全に動きを見切った勇人はサッカーボールを蹴るかのように、テリーサを力一杯空高く蹴り飛ばした。
足がテリーサの顔面に直撃し、「ぷぎゃらぶふぅっ⁉」と奇声を発しながら錐揉みで吹っ飛んでいくのを観ていた生徒達は「女相手でも容赦ねぇな生徒会長・・・・・・」と軽く引いていたのは余談である。
だが、勇人の攻撃はそれだけに止まらない。
すぐさま跳び上がって何もない宙を蹴って空を駆け上がり、テリーサを追撃する。
テリーサに追いついた勇人は、炎を発するその身体を素手で掴み取り、グラウンド目掛けて真下へ放り投げた。
重力に従って地へと落下するテリーサを、勇人は再び宙を蹴って追撃する。
墜ちるテリーサよりも速く駆け降りて、身体を回転させて勢いをつけた勇人は、踵落としでテリーサをグラウンドに叩きつけた。
地面が大きく砕け、粉塵が辺りを覆い尽くす。
友紀は軽く剣を振い、魔力によって発生させた衝撃波で粉塵を吹き飛ばした。
視界が良好になり、その姿が露わになる。
そこにいたのは、
「よし」
陥没して罅割れた地に倒れるテリーサの頭を踏みつけた、神爪勇人の姿がそこにあった。
「悪魔かお前は・・・・・・」
「知っての通り人間だが?」
蹴られまくって既にボロボロの姿で気絶している女生徒の頭を、グリグリと足で踏みつけてる生徒会長の姿に、顔を引き攣らせる風紀委員長。
友紀には見慣れた光景ではあるが、それでも生徒会長が女の子を足蹴にしているのだ。
まともな神経の持ち主なら、さぞ信じられない光景だろう。
いくら勇人がフェミニストでも無ければフェミニズムでも無いとしてもだ(マスキュリズムでもないが)。
「さて、と」
踏みつけた足を離し、勇人は視線をテリーサから友紀へと移す。
1対2の構図から、1対1に変わった。
これで勇人に対する友紀の有利性はなくなった・・・ということはない。
別に人数が多いから有利だなど、友紀は考えていない。
勇人もまた、相手が二人だから不利だなんてことは考えていない。
友紀は元々一人で勇人を倒すつもりだったし、常に親衛隊なんて面倒な集団などを相手にしている勇人にとって、複数人相手の喧嘩などいつもの事だからだ。
「後はお前だけだな」
「フ・・・そう簡単に、私に勝てると思うなよ」
剣を正眼に構える友紀と、徒手空拳の自然体で立つ勇人。
互いの視線が交差し、睨み合った状態で静止する。
数秒の静寂。
この膠着状態を先に破ったのは、勇人だった。
友紀とは十メートル程の距離があったが、一足飛びで接近し、勇人は拳を友紀の顔面目掛けて繰り出した。