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我輩は魔物である 第一話


(我輩はマモノである。名前はまだ無い。)


―――どこで生れたかとんと見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。我輩はここで始めてニンゲンというものを見た。しかもあとで聞くとそれは"テンセイ"というニンゲンの中で一番獰悪な種族であったそうだ。



酒場亭主「この魔物め!成敗してやる!」


住民「おーい!街の中に魔物が居るぞ!」



(マ、モノ…我が名は"マモノ"と申すか?)



―――この"テンセイ"というのは時々我々を捕えて煮て食うという話である。



酒場亭主「早く誰か来てくれ!子供がいる通りに魔物が逃げちまう!」


勇者「こんな街中で!?本当か…?」


男格闘家「強い獣の匂いがする、レベルは13、14くらいか」


女魔導士「勇者様、住民に早くここから離れるよう伝えて下さい」


勇者「分かった…格闘家は騎士と様子を見に行って!魔導士は詠唱の準備をしてて!」



(うぬらは…我輩が何をしたと申すか…ただ此処に寝ていた筈なのに…)



―――しかしその当時は何という考もなかったから別段恐しいとも思わなかった。ただ彼の掌に載せられてスーと持ち上げられた時何だかフワフワした感じがあったばかりである。



女騎士「なんだい?見た目はただの子供じゃないか?」


勇者「確かに敵のアイコンが出てるね…けど、人間に危害を加えないなら見逃してあげようよ?」


男格闘家「騎士が先に仕掛けたゆえ、拙者は何もやっておらぬが」


女魔導士「ミミックのように擬態スキルを使って人間に化けてる可能性もある……それ、とても危険」



(口ばかりよく動く、変な生き物だ…)



―――第一毛をもって装飾されべきはずの顔がつるつるしてまるで薬缶(やかん)だ。その後マモノにもだいぶ逢ったがこんな片輪(かたわ)には一度も出会わした事がない。のみならず顔の真ん中があまりに突起している。



男格闘家「相変わらず勇者は甘いな、きゃつも呪われた魔王の末裔、気安く触れてはならぬ」


女騎士「成長すれば、いずれ人間に牙を剝く脅威となる…か」


勇者「この子も魔物で"人間の敵"だって分かってる、でもこんな子供に罪は無いよ」



(何を言ってるかさっぱりだが、敵では無いようだ)



―――掌の上で少し落ちついてテンセイの顔を見たのがいわゆるニンゲンというものの見始であろう。この時妙なものだと思った感じが今でも残っている。



住民「さすが勇者様だ、魔物にも慈悲深い…」


酒場亭主「終わったのか?みんな騒がせてすまん!でいじょうぶみてえだ!」


傭兵「へえ魔物をとっ捕まえたって?どれどれ…」


商人「おっ!こいつは珍しい人型の魔物だ」



―――そうしてその穴の中から時々ぷうぷうと煙を吹く。どうも咽せぽくて実に弱った。これがニンゲンの飲む煙草というものである事はようやくこの頃知った。



商人「魔物と人間の混血で間違いない、調教の手間がかかるが…珍妙な種族は稀少価値も大きい」


男格闘家「扱うのも危険な愛玩動物を飼うなど華族の思考は御しがたい」


女魔導士「奴隷商館で売られてた獣人族、彼らは稀少種を買い集めることで…富と権力の誇示をする」


女騎士「この子は保護できない、大きくなれば獰猛になる、ならば檻に入れるしかあるまいな?」


勇者「そんな…?魔導士や騎士まで…ごめんよ守ってやれなくて…」


(どうやら我輩をどうするか考えている、やはり食べられるのか?追い出されるのか?)



傭兵「稀少種?富豪のペット?それほんとかよ!近くの奴隷商館に質入れしようぜ!」


住民「…いや待て、私が一番先に魔物を見つけた、この奴隷は私のものだ!」


女魔導士「やはり人間も魔物も同族、どの生き物も欲深さは変わらな…」


女騎士「同族?…っ勇者!うまく懐柔すれば、獣の仲間を誘き寄せる囮に使えるかもしれん」


男格闘家「あの魔物の巣窟を攻略する手段か…成程、そういうことなら構わんだろう」


勇者「うーん、良いアイデアと思うけど…」


(口調が激しくなったり緩やかになったり、怒っているのか親しくしてるのか…何をしたいのだ?)



勇者「あのう商人さん、目を離した隙に魔物が暴れるかもしれないので、一応同行させてもらえませんか?」


商人「おお…勇者様直々の護衛とは!なんと心強い!…召し使い、さっさと馬車を持って来んか!さあこちらへ…」


奴隷「かしこまりました、急いで呼んできます…」


(お次はなんだ…ゴトゴトうるさい音が、近づいてくる…)



―――このテンセイの掌の裏でしばらくはよい心持に坐っておったが、しばらくすると非常な速力で運転し始めた。テンセイが動くのか自分だけが動くのか分らないが無暗に眼が廻る。胸が悪くなる。到底助からないと思っていると、どさりと音がして眼から火が出た。それまでは記憶しているがあとは何の事やらいくら考え出そうとしても分らない。



勇者「ここで魔物を誘き寄せよう、罠に掛からなければ、とりあえず逃がすってことでいいよね?」


女魔導士「相手は知恵もあり狡猾なダンジョンの魔物、そんなに簡単にうまく行くのでしょうか?」


女騎士「ものは試しだ…せめて今日の宿代分の稼ぎにはなってくれよ」


男格闘家「勇者、魔物の気配が近い…一先ず城内に戻ろう」



勇者「少しだけ待ってくれ…少しだけ…」


女魔導士「?…どうかなさいましたか?」


勇者「か、厠だ!」



―――ふと気が付いて見るとテンセイはいない。たくさんおった兄弟が一疋も見えぬ。肝心の母親さえ姿を隠してしまった。その上今までの所とは違って無暗に明るい。眼を明いていられぬくらいだ。はてな何でも容子がおかしいと、のそのそ這い出して見ると非常に痛い。我輩は藁の上から急に笹原の中へ棄てられたのである。



勇者「少しだけ…ほんの、少しくらいなら…力を分けてやってもいいだろう…」


※※※【マモノ Lv.1】・・・取得シマシタ※※※


(これは黒い…穴?)



―――ようやくの思いで荷籠を這い出すと向うに大きな穴がある。我輩は穴の前に坐ってどうしたらよかろうと考えて見た。別にこれという分別も出ない。しばらくして泣いたらテンセイがまた迎に来てくれるかと考え付いた。ニャー、ニャーと試みにやって見たが誰も来ない。



(後ろにはさっきの固い荷籠がある)



―――そのうち耳の上をさらさらと風が渡って日が暮れかかる。腹が非常に減って来た。泣きたくても声が出ない。仕方がない、何でもよいから食物のある所まであるこうと決心をしてそろりそろりと穴を左りに廻り始めた。



「ジャラジャラ…」


(ん?なんだこの首輪は…黒い糸が繋がっている、ぐっ固い!?)



―――どうも非常に苦しい。そこを我慢して無理やりに這って行くとようやくの事で何となく血生臭い所へ出た。



(とても噛み千切れない…顎の下に固定された黒い紐で、穴の外に引き返せないようだ)



―――ここへ這入ったら、どうにかなると思って岩窟の崩れた穴から、とある縄張にもぐり込んだ。穴は不思議なもので、もしこの岩窟が崩れていなかったなら、我輩はついに路傍に餓死したかも知れんのである。一樹の蔭とはよく云ったものだ。



(聊か、食い荒らされた餌の匂いが漂う穴の中には入りたくないが…腹が減って死にそうだ)



―――この岩窟の穴は今日に至るまで我輩が隣家の縄張を訪問する時の通路になっている。さて邸へは忍び込んだもののこれから先どうして善いか分らない。そのうちに暗くなる、腹は減る、寒さは寒し、雨が降って来るという始末でもう一刻の猶予が出来なくなった。



(ここから、木の焦げ臭いにおいがする。焚き火だろうか?)



―――仕方がないからとにかく明るくて暖かそうな方へ方へとあるいて行く。今から考えるとその時はすでに家の内に這入っておったのだ。ここで我輩は彼のテンセイ以外のニンゲンを再び見るべき機会に遭遇したのである。



???「オマエ・・・エサ・・・オデ・・・クウ・・・」


(しかし、我輩が見たそれは、肉を食われて、骨になったニンゲンだが)



―――第一に逢ったのが、がおさん(熊や虎に似た魔物)である。これは前のテンセイより一層乱暴な方で我輩を見るや否やいきなり頸筋をつかんで表へ抛り出した。いやこれは駄目だと思ったから眼をねぶって運を天に任せていた。



我輩「我はマモノ、"がおさん"もマモノ、同じマモノ?食うのか?」


がおさん?「オマエ・・・マモノ・・・ハラヘッタ・・・クウ・・・」


※※※【プレイヤー名称】・・・取得シマシタ※※※



―――しかしひもじいのと寒いのにはどうしても我慢が出来ん。我輩は再び、がおさんの隙を見て台所へ這い上った。すると間もなくまた投げ出された。我輩は投げ出されては這い上り、這い上っては投げ出され、何でも同じ事を四五遍繰り返したのを記憶している。その時に、がおさんと云う者はつくづくいやになった。



我輩「善いダらウ・・・腹へったマのものよ!」


がおさん?「ハラヘッタ・・・オデ・・・クウ・・・ヨイ?」


(こやつの台所で食われてしまう、我輩はこやつの血となり肉となる、飢えていたのは我も此奴も同じなのだ!)



―――この間、がおさんの三馬を偸んでこの返報をしてやってから、やっと胸の痞が下りた。吾輩が最後につまみ出されようとしたときに、この家の主人が騒々しい何だといいながら出て来た。



我輩「ワレモウヌも!苦しいマモノ!」


主人がお「オデ・・・クルシイ・・・オマモ?」


下女がお「オマエモ・・・クルシイ・・・マノモノ・・・」


(我輩は決めたのだ、全てをやればきっと此奴の飢えが助かるのだ、命の使い道を決めたのだ!)



我輩「ぜんぶヤル!全部ヤル!」


主人がお「クルシイ・・・ワカル・・・オマモ・・・オナジ?」


下女がお「オデ・・・オナジ・・・マノモノ・・・クワナイ・・・クワナイ?」


(我輩の決意をどうか無駄にしないでおくれ・・・)



我輩「クワナイ!くわない、我を喰わない…ん?ホント?」


主人がお「クワナイ・・・マノモノ・・・オデら・・・ヒト・・・クウ」


下女がお「オマエ・・・クルシイ・・・ワカル・・・おナジ・・・クワナイ」


(なんだか違うみたいだ、同じマモノは食わない決まりらしい…)



我輩「スキきらいおおいやつ。実に勿体ナイやつ」


主人がお「オナジ・・・キライ・・・マノモノ・・・クワナイ」


下女がお「ヒト・・・クウ・・・ワカル・・・ヤツ・・・クワナイ・・・」


(ニンゲンを食うが、マモノは食えないらしい、そういえば我輩の兄弟も母の亡骸は食べれなかったが)



我輩「後でニンゲン食わしてやる。ヨい?」


主人がお「オデ・・・クワス・・・オマノ・・・モノ・・・ヨイ?」


下女がお「アトデ・・・ニンゲクワス・・・ホント?」


(兄弟に近い何かを感じる、同じマモノは兄弟なのだから、何かを一緒に食うべきだ)



我輩「われのものやるオマエにやる絶体」


主人がお「オデノモノ・・・オマノモノ・・・クワス・・・ゼッタイ?」


下女がお「オマ・・・ヨイマモノ・・・オナジモノ・・・ヨイ・・・ヨイ・・・」


(共に同じ飢えの苦しみを知る、母と兄弟に似たマモノ…善い、さっきのニンゲンを必ず食わす)



―――下女は我輩をぶら下げて主人の方へ向けてこの宿なしの小猫がいくら出しても出しても御台所へ上って来て困りますという。主人は鼻の下の黒い毛を撚りながら我輩の顔をしばらく眺めておったが、やがてそんなら内へ置いてやれといったまま奥へ這入ってしまった。



下女がお「ココ・・・クウ・・・トコロ・・・ドイテ・・・」


主人がお「オナジ・・・デモ・・・チガウ・・・ガウガウ・・・」



※※※【言語翻訳メッセージ】・・・取得シマシタ※※※



我輩「我は"テンセイ"をくれたニンゲンを食わす…善い?」


主人がお「クウ・・・ヒト・・・ヨイ」

[人間を食わすなんて、イイやつだなお前]


下女がお「ソト・・・キケン・・・ヨイ?」

[外は危険です、本当に良いのでしょうか?人を食べれるならぜひお願いします]



※※※【転生者ステータス】・・・情報開示シマスカ?※※※


はい


⇒いいえ



我輩「ほら"テンセイ"あるから大丈夫、すぐ持ってくるよ。"がおさん"」


主人がお「がおさん・・・がお?ガオ・・・ガウガウ?]

[オレはそんな名前だったか?がお?ガオガオと鳴くからか?]


下女がお「ガオウ・・・・・・・ガウ・・・・ガウ?」

[いえ、がおうではなく・・・貴方も私もガウガウと鳴いてますよ?]



主人がお

[アイツを食おうとしたのに、まさか身を差し出すなんてビックリだ…]


下女がお

[妙に親しい雰囲気と思ったら、急に同じ獣人語で話し出すもの、仲間とは思わなかったわ]


主人がお

[やっぱり魔物は見た目じゃないな…]


下女がお

[そうね気を付けましょう、うっかり食べ過ぎないようにもね]


[余計なお世話だ…]


[食べ過ぎはお互い様よ]


「ガウガウ…ガウガウ…」



―――主人はあまり口を聞かぬ人と見えた。下女は口惜しそうに我輩を台所へ抛り出した。かくして我輩はついにこの家を自分の住家と極める事にしたのである。



我輩「兄弟に近いマモノが飢えていた、だから彼らにニンゲンの肉をやろう…うむ。」


(同じ飢えの苦しみを知るマモノが居たとは、下水道住みの世間知らずの我輩には新たな発見であった)



我輩「この"地図(マップ)"の赤い点、これが獲物の標的(ターゲット)だと思われる…うむ。」


※※※【マップ地図】・・・取得シマシタ※※※


(飢えの苦しみと新たな発見…それは同時に、我輩の"テンセイ"としての才能を開花させた)



今日のステータス成果

【マモノ Lv.1】レベルアップ

・・・勇者に不思議な力を貰いレベルという概念が生まれた。マモノが感じていた勇者の"違和感"とは、"警戒心"が微塵も無いことである。常人の域を超えた神の力がある故の余裕なのか、不幸な種族に対して、救済の方法として"テンセイ"を分け与えた。


【プレイヤー名称】取得

・・・名前を自覚したため、主人公(プレイヤー)としての自我が芽生える。名前取得はゲーム開始を意味する。


【マップ地図】取得

・・・ダンジョンに入ったため、地図(マップ)のナビゲートシステムが出現。RPGではお約束の便利道具。


【言語翻訳メッセージ】取得

・・・仲間同士で会話をしたため。メッセージが表示された。ただしシステム上、主人公と敵は会話不可。


【転生者ステータス】取得

・・・・冒険者のメニュー画面。他のCPUには見えないので、見えないものに話しかける痛いヤツに思われないよう注意。


※※※【人語解読スキル】・・・マダ未取得デス※※※

・・・人間と魔物間の、互いの言語は理解不能で表示されない。しかしボス級の魔物なら人間と会話できる?




<あとがき>

異世界のテンセイシャとか、ユウシャとかチートすぎて怖い世界だと思います。まる

だから。魔物が人間にすごくイジメられるハードモードな世界を書きたかった。

魔物は文字通り虫ケラ扱いされている、でも逆に魔物がレベルアップして、異世界テンセイシャを倒す物語って面白いかも?

と思い書いた。ので、誰か書ける人いたら書いて。がおさんの約束だよ。

同じ飢えて苦しむ人生ハードモードな魔物はみんな仲間。俺TUE!勇者など平気で命殺す輩死すべし。

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