桜が僕を呼んでいる
ピピピ、ピピピ。
布団に入って八時間。
結局僕は一睡もできず朝五時を迎えてしまった。
重たい身体を起こしカーテンを開けると、昨日の夜降っていた雨は上がり晴れやかな空が広がっていた。
だが僕の心は何1つ晴れやかではない。
緊張で今すぐ内臓が飛び出てしまいそうな状態だ。
今日から僕、赤羅魏 弘樹は高校生となる。
努力がようやく報われアキトと同じ高校に通えるのだ。
嬉しくて制服が届いた日にはアキトに見せびらかした。
あの日はまだ何も心配のない時期だったのだ。
今はどうだろうか、不安が十割を締めている。
「穴があったら埋まりたい!!」
最低な朝だ。
桜が僕を呼んでいる。
「朝からうるさい殺すぞ」
そして朝一番に聞いたセリフがこれだ。
僕の父、赤羅魏 奏哉。
今日の大学は午後から、朝に起こされるとすこぶる機嫌が悪い日である。
「ねえ、アカラギ、僕ちゃんとうまくやれるかな?大丈夫かな??」
「知らない、俺は寝る。」
「ねえ〜〜〜アカラギ〜〜〜!!!」
布団ごと揺すってみるが反応はない。これ以上しつこくやるとアカラギからの制裁を受け、僕は初日から高校を欠席することになる。
「どうせ他人事だよ…」
どうせ、寝坊してしまわないようにと朝五時から一時間おきにアラームを設定してしまった僕が悪いのだ。
起きる予定の六時までどうするかと考えた結果、アカラギの隣に寝そべってみることにした。
よく夜が怖くて眠れない時は、こうやって隣の冷たい床に寝そべったものだ。
小さい頃こうしていると、アカラギは俺にも布団をかけてくれた。
「…あ。」
温かいものが上に被さる。
アカラギが布団をかけてくれた。
もしかしたら条件反射なのかもしれない、とくつくつ笑ってしまう。
寝返りをうつとアカラギは目を開けていた。
「眠れなかったんだろ、一時間だけでも寝ておけよ。」
「…ありがと、父さん。」
そう言った瞬間アカラギは起き上がり布団から出ようとする。
「な、な、出ないでよ、それじゃあさっきと同じじゃんか、僕寝れないよ!」
「うるさい気色悪いこと言うな!こんな大きくなった息子と寝る父親が何処にいるんだよ!」
「ねえアカラギお願いだってばあ〜…」
ピピピ、ピピピ。
目を開けて、ちゃんと寝れたのだと思った。
「ふぁ…」
一度寝るとさっきまで寝られなかった分の眠気が一気に来る。
二度寝に入ろうとしたところで頰を叩かれた。
「おはよう、ヒロ。」
「おは…ます…アカラ…」
髪が黒い。鋭く赤い目。そして僕と同じ制ふ…
「アキト!?」
「よく眠ってたな!ハッハッハッ」
僕が迷わないか心配で、家まで迎えにきたらしい。
ついでに飯も食べようと言う算段だ。
そういえば焼き魚のいい香りがする。
これは、アカラギの手作りということなのか。
リビングに出るとエプロンをつけたアカラギがこっちを睨みつけていた。
「よく眠れたか?」
「う、うん、おはよう。」
高校生にもなって父と寝たいなんて、恥ずかしいことをしてしまった。
椅子に座ると食べるはずのサンマは半分しかない。
「アカラギ、このサンマちゃんの下半身はどこへ…?」
「隣を見ればわかるさ」
隣にはサンマちゃんの下半身がのった皿。
そして笑顔で座るアキト。
「ア〜キ〜ト〜〜〜〜〜〜〜〜俺の、俺のサンマなんだけど〜〜〜」
「だってお前の分の魚はないってアカラギがいうから…」
結局僕はサンマの半分で腹を満たすことになったのだ。
制服を着、また緊張が戻ってきた。
アキトは似合う、と笑いかけてくれる。
玄関まで来るとアカラギがメガネ忘れているぞ、とメガネを渡してくれた。
「アカラギ、その…ありがとう。」
「なんだよ、気持ち悪い。」
大丈夫だ、ここまでは予想がついていた。
「高校に通わせてくれて。俺絶対いつか恩返ししてみせるよ。」
ニッと笑うと、アカラギも仕方がない、と言うように微笑みを返してくれた。
そして、頭をぐしゃぐしゃと撫でる。
「…いってらっしゃい。」
「いってきます!!」
外に出ると涼しくもどこか暖かい風が頰を撫でた。
そう、春はすぐ、目の前まで…。