神という名の化け物
どれだけ走ったのだろうか、追ってくるような足音は聞こえない。
枝が折れる音、葉を踏む音、時折聞こえるアリサの声。
クロは今、どうしてるだろうか。
クロが悪い子だとは思えない、僕に対してとても親切だった。
アリサに手をかけるのもギリギリまで我慢していたように思う。
何より、とても、とてもとても寂しそうに見えたんだ。
「はな・・・離してくださ・・・もう、走れな・・・い」
アリサの声にハッとして足を止め、手を離した。
僕は周りを見渡すが追っ手らしき人も、クロ本人も見当たらない。
「大丈夫そうだね」
アリサの服はボロボロで、皮膚も引っかき傷で全身に血が滲んでいた。
それでも深い傷は無さそうに見えてホッと息をつく。
「あの・・・、お二人はいったい何者なんですか。考えてみたら最初からおかしいです!子供二人なのに・・・山賊はどうしたんですか!」
「僕たちは神様、らしい。山賊は・・・殺した」
「ころ・・・」
「神様だもん、人殺しの悪者を神様が殺す、問題ないよね?」
「かみ・・・さま、黒山羊、シュブニグラス!え、本当に?・・・あ!ぁぁぁぁ、思い出した、確かあなたの事を副王って!副王・・・ヨグソトース・・・」
アリサは僕に握られていた手を心配そうに見ている。
まるで異常が無いか検査するように、震える手を真剣に見つめていた。
「父が・・・ヨグソトースは触れてはいけない時空の神だと・・・」
「大丈夫だよ、なんとも無いでしょ?」
そう、人の姿でなら人と触れ合える。
次第にアリサは冷静さを取り戻していった。
「・・・はぁ、ごめんなさい。取り乱したりして、そうですよね。異世界の神様なんている訳が無いですよね。信者が居た事に驚いて気が動転して・・・」
そう言いかけてアリサはしばらく黙った後に頭を抱えてうずくまってしまう。
「違う!違う違う!あれは・・・あれは!あの玉虫色の球体は・・・本当の!」
さっきからアリサの様子がコロコロと変わり少し心配になる。
「ねぇ、アリサ。さっきからどうしたの?」
「ひぃっ!こないで!来ないでください!」
僕が近づくとアリサが尻餅を付いて転び、僕を見て怯えていた。
「・・・そうか、やっぱり僕は神様じゃなくて化け物だったのか」
そう考えた方が納得できる。考えたくなかっただけだった。
僕は、人間だった。人間だったはずなんだ。
気が付いたら玉虫色をした球体状の化け物になっていた。
とても掠れた記憶の中の僕はそんな姿では無かったはずだ。
木で出来た家やコンクリートの建物に囲まれて、パソコンやテレビを見て・・・。
そうだ、家族もいた。顔は思い出せないけれど、確かに居たんだ。
会いたい、家族に、会いたい。
「あ、ぁぁぁぁあああ!僕は、僕はぁ!!どうして?どうして!分からない、ここどこなんだよ!帰りたい、帰りたい・・・帰りたいよ!」
蓋をしていた認めたく事、考えないようにしていた自分の事。
自覚したら感情が溢れて涙が止まらない。
僕は一頻り泣き、アリサはそんな僕を呆然と見つめていた。
気が付いたらそのまま泣き疲れて寝てしまっていたらしい。
木々の隙間から朝日が差し込んでくる。
暖かい・・・。しかしそれは日差しの暖かさでは無かった。
「・・・クオンくん?起きましたか?」
そこにはアリサが居た、アリサが僕を抱き抱えていた。
「・・・アリサ?もしかして、一晩中?」
「はい、・・・寒かったし、クオンくんも寒いんじゃないかなと、思ったので」
「僕に触るの・・・怖くないの?・・・化け物だよ?」
「怖かった・・・けど、それ以上に・・・」
その先はなんとなく分かった気がした。
「・・・ありがとう」
僕はアリサの腕から離れると周りを見渡す。どうやらクロは追ってきていないらしい。
「クオンくんはこれからどうするんですか?」
「鍵・・・、自分の家に帰るための、玄関の鍵を探すんだ・・・」
「・・・じゃあ私も手伝います。私は二回もクオンくんに助けてもらいましたから。これは返しきれない程の恩だと思います」
「僕は・・・化け物だよ?」
「違います、神様です。私を助けてくれた神様です」
そう言ったアリサはとても優しく微笑んでいた。
短くてごめんなさい。次回からヒロイン交代!