言葉の楔
投稿遅くてごめんですよー
「クロ、どこに向かって歩いてるの?」
僕とクロは森の中を歩いていた、目的地はどこなのか、もうずいぶんと歩いた気がする。
「人の居るとこよ、・・・それよりも、あの女まだ付いて来てるのね」
僕たちの後ろからは山賊に捕まっていた女の子が付いて来ていた。
女の子、とは言うものの僕らよりは年上なのかもしれない。
憔悴しているはずなのに必死で付いてくる。
僕らも肉体は子供だ、元の体力は女の子の方が高いのだろう。
その子の目はまるで僕らを見失ったらまた地獄に逆戻りになるとでも言いたげだった。
それでも時折見せる苦悶の表情が女の子の限界を物語っていた。
女の子との距離が次第に離れていく。
「・・・ねぇ、クロ。僕疲れたよ、少し休まない?」
「やだ。あの子待ってあげるつもりでしょ?」
そうなのだろうか、僕は待ってあげたくてクロに意見したのだろうか。
いや、僕は実際疲れていた、疲れていたんだ。
今日は色々あったから、休みたくて言ったんだ。
「違うよ、僕が疲れたんだ。疲れたから休みたいんだ。クロは疲れないの?」
「・・・そうね、それなら休みましょう」
「ありがとう、クロは優しいね」
「・・・そうね」
僕とクロはそれぞれ別の岩に腰掛けて座っている。
少しして女の子が追い付き、息を切らしながら嬉しそうな顔をしていた。
逆にクロは不機嫌な顔を隠そうともしない。
「はぁ・・・はぁ・・・、まってて・・・くれたん・・・ですね。・・・ふぅ」
女の子は息を整えながら話す。
「違うわ、あなたなんて待ってない、クオン、もう行きましょう」
「いや、僕はもう少し休憩したいな、今日は色々あって疲れたし、お腹も空いたよ」
「・・・そぅ、・・・まぁクオンがそう言うなら」
僕は山賊から金貨や銀貨といった貨幣以外にもパンや干し肉も頂戴していた。
僕の今の体に食べ物が必要なのかどうかは分からない。
でもお腹が空いたのだから必要なのだろうと思った。
僕はパンと干し肉をクロに渡す、それを受け取ったのだからクロにも必要なのだろう。
そして、次の行動でクロの表情が明らかに変化した。
驚いたような、怒ったような。
「はい、君にもあげるよ」
そう言って僕は女の子にパンと干し肉を渡した。
なんでだろうか、そうした方が良いと思ったのだ。
「ありがとうございます!ほんとに、ほんとうに助かります」
女の子は食料を受け取りにクオンの所まで近づくと隣に座った。
「あ、ごめんなさい。隣座っちゃっても良かったですか?」
「え・・・あ、うん。良いよ」
「良く見たら私よりも若そうですね。私の名前はアリサです。えっと、クオンくんとクロさんでしたっけ?お二人の名前。よろしくです」
「よろしくしない!もう良いでしょ!行くよクオン!」
クロが立ち上がって大きな声を出す。
「え、えー。何怒ってるのさ。食料分けてあげるくらい良いだろ?」
「クオン・・・、その女を食料にしても良いのよ?」
クロから触手が伸び始めるのが見えた。クロは本気だ。
「分かったよ、分かった。もうアリサの面倒は見ない。ね、それで良いだろ?」
僕はアリサを庇ったのだろうか。クロの機嫌をとりたかったのだろうか。
おそらく後者だろう、僕はクロがいないとダメなのだから。
それは何故なのか、僕は人間では無いからだ。
僕の本当の姿は玉虫色の球体が集まった様な化け物で、クロだけが理解者だからだ。
・・・僕の、本当の姿は、本当に化け物なのだろうか。
クロは神だと言った。神なら、と自分を納得させる。
「せめて食べ終わってから行こう、ね?その後はまた僕とクロの二人旅。アリサの事は無視するから。それで妥協してくれると嬉しいな」
「・・・分かったわ。次手助けしたら容赦しないわよ」
容赦しない。それは僕では無くアリサに向けられた言葉だと理解した。
僕が手助けしたら、アリサはクロに殺される。
仕方ない、仕方ないよね。アリサは人間で、僕とクロは神様なんだから。
三人は再び歩き出す。
アリサは体力も戻り初めており、僕とクロに難なく付いてくる。
それでも少し距離を置いているのはクロへの配慮だろう。
「忌々しいわね・・・」
「え?なんて?」
「・・・なんでも無いわよ」
しばらく歩いたところでようやくクロが立ち止まった。
そこにあったのは立派な建物、雰囲気だけで言うなら教会の様な佇まい。
大きな扉には黒い山羊が描かれていた。
「ここが目的地?」
「・・・今日の宿ってとこね」
少ししてアリサも到着するが建物を見て顔が強ばる。
「え!黒山羊・・・シュブ=ニグラス・・・」
アリサは黒山羊という神様を知っているようだった、豊穣の神様だし有名なのだろう。
それにしては様子が変だった。アリサは物怖じするように後ずさる。
「あら、あなた物知りね。この世界ではその名前知ってる人あまりいないのに」
「私の父が学者で、確か・・・異世界の・・・邪神・・・」
・・・邪神?
クロが指を鳴らすと黒いフードを被った男達が現れた。
深く被ったフードから僅かに見える顔は青白く、生気を感じない。
「男の方は副王よ。女の方は好きにして良いわ」
クロがそう言うとフードの男達が僕に一礼した後アリサに群がりだした。
「きゃ!いやぁ!いやぁぁああ!!きゃあああああ!!」
男達はアリサの髪を、服を、皮膚を、千切れんばかりに引っ張りだす。
アリサが、女の子が、危険な目に合っている。
なんだっけ、心にひっかかる。僕の心に、一つの言葉がひっかかる。
そうだ、「女の子には優しくしなさい」。誰だっけ、誰の言葉だったけ。
・・・、・・・・、・・・・・お母さんだ。
僕の体が泡立つ、玉虫色の泡が周囲に浮かび、集まり、球体となる。
たくさん、今自分が出せれる限りの球を作り出す。
僕の周囲に十個ほど浮かんだ球を、フードの男達に向かって放つ。
球に触れた男達は瞬く間に蒸発し、この世にいた痕跡すらも残さない。
クロは次元の摩擦熱だと言っていたが詳しい原理は分からない。
分からないが今はこれしか戦う術を知らなかった。
やってしまった。アリサを手助けしてしまった。
きっとクロは怒ってる。アリサを殺すだろう。
僕はアリサの手を引っ張って森の中へと逃げ出した。
僕は、ただ、ただただ怖かった、恐怖した。
何も知らない場所で、道しるべを裏切った自分の行為に対して、恐怖したんだ。
人では無い僕を受け入れてくれる女の子を、裏切ったんだ。
クオンが少しだけ前世の記憶を思い出しました。
一貫してクオン視点で書いていくつもりです。