未熟な黒山羊
ヒロイン登場回です。
「だいぶ縮んだね、人と同じくらいの大きさ?一番イメージしやすい大きさなのかもね」
声が聞こえた、女の子の声。
僕は目を開いた、どうやら森の中の様だ、声の主を探す。
声の主はすぐに見つかった、360度見渡せるのだから当たり前だ。
そこに居たのは英国風のゴシックロリータファッションの小柄な女の子。
服に負けないくらい綺麗な黒髪、そしてその頭には小さな山羊の角。
「私は黒山羊、未熟な黒山羊。あなたの理解者でもあるわ、未熟な副王さん」
黒山羊?副王?未熟なってどういう事だろう、理解者なら教えてほしい。
「ごめんなさいね、人の姿だと君の声は聞こえないの。君も人の姿になってちょうだい」
どうやって?分からない、分からないよ。
「・・・できないみたいね、その姿のままだと色々不都合もあるのよ?知性のある生き物は君の姿を見ただけで精神が崩壊するわ。それに触れるだけで相手は体内から沸騰して蒸発してしまうかもしれない。君は・・・いえ、私たちは特定の姿を持たないから人にもなれる、人になれば人と接する事が出来るの」
そうだったのか、人に、人になりたい。
僕は強く念じた。念じたが体が泡立つだけだった。
「・・・ダメね。付いてきて」
そう言うと黒山羊と名乗る女の子は森の奥へ進んでいく。
僕も付いて行く。
たどり着いた場所には人の骨がたくさん転がっていた。
白骨死体というやつだろう、たくさん、たくさんあった。
正直あまり怖いと感じる事は無かった、僕の心は壊れているのだろうか。
「好きなのを選ぶと良いわ、人の形になれないのは人の骨格が分からないからよ。自分の体で肉付けするの。すぐにコツが掴めるはずよ」
僕は黒山羊の女の子よりも少し身長が高そうな骨を選んだ。
なんとなく、同じくらいの大きさになりたかった。
それでも女の子よりは大きい方が良かった、ただそれだけの理由で骨を選ぶ。
骨に覆い被さり、自分自身が肉になるイメージを膨らませた。
球体だった体がブクブクと泡立ち骨に付着していく。
僕は次第に人の、男の子の姿に変わっていった。
自分の昔の姿なんて分からないからなるべくかっこよくイメージした。
きっと元の骨の持ち主も端整な顔立ちだったに違いない、イメージはすぐに定着した。
「あ、・・・あー、あー」
僕は声を出してみる。無事に人の姿を手に入れたようだった。
「出来たみたいだね。・・・まずは服を着てほしい」
「あっ、そうだね。ごめんごめん」
人の姿になると人の心に戻った気がした。裸でいる事が恥ずかしかった。
近くに落ちていたボロ切れの様な服を着る、きっと仏さんの物だろう。
しかし抵抗は無かった。やはり僕の心は壊れているのかもしれない。
「着たよ、でもちゃんとした服が欲しいね」
「じゃあ調達しに行こうか、未熟な副王」
「・・・その未熟な副王っていうのはどういう意味?君も未熟な黒山羊って名乗ったね、名前は無いの?正直呼びにくいし、返事もし辛いよ」
「そうね、名前くらいはね。私の事はクロとでも呼んで。君は・・・何が良い?」
自分の名前も覚えていない、適当に名乗っておけば良いだろう。
「それなら、副王から取ってクオンで」
「分かったわ、クオン。で、副王の事だったわね。副王は門にして鍵、外なる神。どの世界、どの次元の過去現在未来にでも行ける存在よ」
「・・・なら、元の世界に帰りたい」
「無理、存在が重複する。未熟な副王は消し飛ぶでしょうね」
「・・・家の扉が見えたんだ、鍵があれば、開く気がしたんだ」
「鍵、か。じゃあ探しましょう?納得するまで、ね。付き合うわよ」
「本当?良かった、今自分がどこにいるかすら分からないし不安だったんだ」
「呆れた副王ね。ほんと未熟だわ、ふふふ」
そう言ってクロは笑っていた。
たくさんの骸骨が転がる森の中で、可愛らしく笑っていた。
クオンは人骨を手に入れた!