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転生したら玉虫色の球体でした  作者: 枝節 白草
第2章:港町に住まうモノ
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混ざり者

穏やかだった海は急に表情を変えた。

分厚い雲が空を隠し、強い風が吹き、うねりだした波が船を揺らす。

高波なんて来たらこんな小さな船はひとたまりも無いだろう。

船乗りが慌てて舵をとる。


「この海域が荒れる事なんて今まで・・・くっそ、やはりヌシの居ない海域なんて来るんじゃなかった!金貨に目がくらんでたぜちくしょー!」


悪態をつく船乗りを尻目にアリサの腕を掴むと客室へと連れていく。

ただの人間が海の中に放り込まれたらまず助からない、甲板にいるよりはマシなはずだ。


「やっぱり神様の加護が無くなった事が原因かな?」

「おそらく・・・、ああ・・・失念していました。もうリヴァイアサンの加護は失っていたというのに、私の考えが甘かった・・・。ごめんなさい」


「いやぁ、事態はもうちょい深刻かも?、耳澄ませてみ?」

話に割り込んできたチェルシーの言う通りに耳を澄ませてみる。


波の音、風の音、それに混じり妙な音が聞こえてきた。

船を叩くような音、そして足音。足音に近いのだが妙に水気を帯びた音。


「うわああああ!なんだ!なんだこの怪物は!」


船乗りの悲鳴が聞こえて甲板を見る、そこには人の様な形をした妙な生き物がいた。

二足歩行で手足もあるが、その指には水掻きのような物が見える。

何より驚いたのはその顔だ。魚?蛙?どっちとも言い難い。


「チェルシー、あれ何?」

「んー、混ざり者だね。人外と人のハーフってやつ」

「へー、・・・あ、もしかしてあの船乗りピンチ?」

「なんか小さなナイフで戦おうとしてるけど。うん、無理だと思うよ」

「そっか、じゃあ行ってくる。アリサとチェルシーはここ居てね」



僕は一人で船乗りの元へと向かう。揺れる船に捕まりながらゆっくりと。

それは船乗りも同じだ。足取りがおぼつかない。


「おーい、助けてあげようかー?僕ならそいつ殺せるけどー」

「おまえみたいなガキが!?・・・魔法使いか?それならありがてぇ」

「金貨一枚」

「はぁ!?」

「命と金貨どっちとる?」

「このっ、・・・くそぉ!分かった!分かったよちくしょう!払ってやるから助けろ!」

「はい、まいどあり」


僕の指先がわずかに泡立つ、泡が集まり球を形成する。

小さな、ピンポン球サイズの玉虫色の球体。僕の本体の欠片。

小さく作ったのには訳がある。実験だ。

サイズで威力が変わるか否か。

僕の指先から放たれたソレは化け物の魚顔へと命中した。


僕の本体へ触れたモノは次元をズラされ、膨大な摩擦熱を生む。

では小さな欠片ではどうなるか。

答えは簡単だった。効果範囲が狭まるだけ、威力は健在だ。


化け物の顔、魚の様な顔だけが蒸発し、この世から消え去った。

断面が焼け焦げている。きっと嫌な臭いに違いない、風が強くて良かった。


その光景を間近で見ていた船乗りは目を見開き尻餅をついて驚いている。

若干ズボンが、特に股間の辺りが濡れている様にも見えたが波飛沫でもかかったのだろう、そういう事にしておいてあげようと思う。



しばらくすると天候が戻り始め、程無くして港町も見えてくる。

日は沈み始めていた。



「酷い目にあったが、着いたぜ。・・・ほらよ、金貨は返す・・・」

流石に僕の力を見た後ではしらばっくれる事もできない様だ。

船乗りは約束していた金貨を僕に差し出す。

「まいどー、じゃあこれ、改めて船代ね」

「・・・ん?」

僕は金貨を受け取るのと同時に船乗りに銀貨を握らせた。

「ちっ、・・・まぁこれで良しとするか」



後でアリサに聞いた話だが本来船代は銅貨一枚程度らしい。

銀貨一枚なら大型船で豪華な食事も付くと言っていた。

まぁ、危険な海域を渡ってもらったのだ、妥当な値段だろう。



町に着いた僕らは唖然としていた。

アリサの話ではここは賑やかな港町だったはずなのだが、妙に静まりかえっている。

歩いている人も疎らで、その誰もが陰気くさい。

目は虚ろであるにも関わらず、行き交う人達は皆こちらを見ている様に感じる。


「気味が・・・悪いですね」

「まぁ、とりあえずアリサの家に行こうよ。家族はいるの?」

「いえ、父と二人暮らしだったので・・・」


アリサの家に向かう途中にもあまり人を見かけなかった。

たまに民家の窓からこちらを見つめる視線を感じる、人が居ない訳では無いようだ。


「あ!・・・あちゃー・・・」


アリサの家に着いた時、アリサは重大な事に気が付いた。

考えてみればすぐに分かる事だが、・・・鍵が無い。


「すみません、家入れません。今日は宿にでも行きますか」

「僕が何の神様か忘れたの?」

「へ?」


僕は次元を司る時空の神、副王ヨグソトース。

どこにでも現れ、どこにも居ない、そんな神なのだから次元を繋ぐことなど造作もない。

・・・と、言いたいところだけど僕にできるのはせいぜい小さな覗き窓を作るくらい。

でも今はそれで十分だった。

さっそくアリサの家のドアの内側へと続く覗き窓を開いた。

どれだけ小さな窓かと言うと、妖精のチェルシーなら通れるくらい。

そう、つまりこれで十分なのだ。


「チェルシー、先入って鍵開けてきて」

「・・・ねぇクオン、これって通って大丈夫?」

「・・・たぶん」

「いやぁぁあ!ここ通った瞬間さっきの魚野郎みたいに私もジュッて蒸発しちゃうんじゃないの?ねぇ!ねぇねぇ!大丈夫!?」

「だから大丈夫だって。・・・たぶん」

「たぶんて!私通らない!絶対通らない!」


僕は、駄々をこねるチェルシーを掴み、時空の覗き窓へと・・・、放り込んだ。


「ひゃああああ!!」


そして少しして玄関のドアの鍵が開いた。


「チェルシーお疲れ、ありがとう」

「・・・死んだかと思ったよ!」



チェルシーは頑張りやさん(強制)

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