透き通った黄色
どうやらヒロインというのは、イケメンにも、平凡な男の子にも、心が見える高校生にも、同様に現れるものらしい。
きっかけは、放課後、僕が誰もいない教室で一人本を読んでいた時だった。
僕はできる限り、自由な時間は一人で過ごすようにしている。他人の色をずっと見ていると、必然的に見たくない色まで目に入る。
嫌いな色を見ると心が萎える。僕はずっとこの能力と生きてきたが、それが変わることはなかった。
夕日のオレンジを吸い込んで、レースのカーテンがふわっと揺れた。
それとほとんど同時に、白いワンピースを着た彼女が教室に入ってきた。
忘れ物をしたのだろう。入ってきた一瞬に滲ませていた青色は、自分の机の上のノートを見つけたとたん、明るい黄緑色に変わった。
黄緑色のなかで、ほっとして笑う彼女を見て、綺麗だなと思った。
と、彼女がこっちを向いた。突然のことなので、完全に目が合ってしまった。
油断したな、そう思った。
僕は普段、教室のなかでは社交的なほうだ。そんな僕が放課後、誰もいない教室で一人本を読んでいる。
ここで遭遇した相手は、大体一瞬、紫色を滲ませる。
理解できない、という感情の表れだ。僕を変わり者だ、と判断する人もいる。もともと僕に対して置かれていた一定の距離が、ほんのちょっとだけ広がるのだ。
今回も、その色を覚悟した。
だけど僕を見る彼女には、僕が予期した色は浮かばなかった。
彼女が浮かべた色。それは限りなく透明に近い、透き通った黄色だった。
白いワンピースに映えた夕日の光。そこにうっすらと明るさを滲ませた彼女に、僕は一目惚れしていた。
彼女が持つ色の美しさに、圧倒されていた。
彼女が微笑んだことで、僕は我にかえった。彼女はそのまま「またね」と小さく手を降ると、ワンピースを翻し、教室を出ていった。
残された僕は、ぼんやりと、風に揺れるレースのカーテンを眺めていた。