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色彩に囲まれたモノクロ

僕は多分、小説の主人公にはなれないタイプだ。


教室の一番後ろの席で、さっき読み終えた小説を鞄にしまいながらそんなことを考える。


自分で分析するに、顔はおそらく中の下程度。成績も悪くないし、運動神経もそこそこだ。要するに、これといってよいところもなければ、致命的な欠点もない。


そんな平凡な男の子の前に、いきなり天真爛漫な運命の人が現れて、戸惑う彼の手をとって見たこともない新しい世界へ―

というのは、青春小説の一つ王道だが、僕にそんなことは起こり得ない。


小説は小説。現実には起こらないこと、とたかをくくっている訳ではない。事実は小説よりも奇なり、という言葉を、僕はわりと信じている方だ。


それなら、なぜ僕の日常に運命の人が舞い降りてくることはあり得ないのか。それは―


と、今まで明るい色彩に包まれていた教室の一点に、暗めのブルーが現れた気がした。


色彩の変わった方へ目をやると、女の子が一人、ボールペンを持って周りを見渡していた。手元には、今日が提出締め切りの校外模試の申し込み用紙がある。


僕は黙ってペンケースから修正テープを取りだし、彼女の方へと歩み寄った。肩を叩き、驚いた表情の彼女に、自然な笑顔を向けて話しかける。


「こういう書類で間違った時ってあせるよね。僕もさっき、思いっきり昔の出席番号書いちゃってさ。」


こういうときは、笑顔はもちろんだが、具体的で親しみやすいエピソードを添えておかなければならない。人見知りをする相手だと特に、(何でこの人わかったの?)と怪しまれる結果になりかねないからだ。


彼女は一瞬戸惑いの色を浮かべたが、すぐに「ありがとう」と笑って修正テープを受け取った。


教室の色は、いつもの見慣れた色彩に戻った。僕は決してお人好しな訳ではないが、あの青を見るのは得意ではない。不安、焦り、怯えを表す、暗い青。


さっき僕は、平凡な男の子のもとに運命の人が現れる、そんなラブストーリーは僕には起こり得ないと断言した。


理由は簡単。僕は平凡ではないからだ。



僕には、人の心が見える。

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