茫然、騒然、大接戦-3
大橋と瑪瑙の殴り合いは20分くらい続いた。2人はただ拳に魔力を纏わせて殴り合うだけだったが、その喧嘩の様子は普段騒がしい筈のドラッヘナー姉妹すら黙りこむ程壮絶な物だった。
「……ハァ……ハァ……。」
「……この程度では無いでしょ!さぁ、私を殺す気で……。」
2人の喧嘩は1本の氷の矢が飛んできた所で終了する事となった。というのも氷の矢に気を取られた直後、2人はドサリと倒れたからである。
「ったくこれやから弱い人間を鍛えるのは面倒なんや。このまま喧嘩続け取ったら死んどったで?」
「…なんでそんな事が言えるのよ?」
「怒りに気を取られすぎや。暴走して無茶しすぎた結果、命削って喧嘩していた様なもんや。」
アベルは呆れながら大橋と瑪瑙を担ぐ役目を持つ土人形をファイズに作らせた。2人は動くことが出来ず、流されるまま担がれていたので本気で死が近かったことを自覚できたのだろう。悪夢を見るかのように唸っていた。
『エストの方も回収しておきましょうか。』
「せやな。そーしてくれると助かるわ。」
『ただ、エストも大分無茶をしておりますね。』
「せやけどアレを単身で倒したのは評価できるで。」
2人がそう話していると虫の息といえる程疲労困憊しているエストが連れてこられた。エストはエルドンを殺すために魔力切れが起きるレベルで魔力を行使していた。その結果、エストは立ち上がれなくなり、彼女と対峙したエルドンが死してなお立ち続けたのだった。
「今回の戦は前回よりも個人で強い奴と闘えたのが良い事やろうな。ただ、一部歪んだ奴もおるけど。」
『仕方ないでしょう、マスター。ですがこの歪みを経て強くなっていくのがテンプレでしょう?』
「せやけどなぁ……まぁ、どうにかなるわな。」
アベルとファイズの会話を聞いていたドラッヘナー姉妹は何も言えなかった。自分達はこの3人と違うとは思えていないからだ……と言うのもドラッヘナー姉妹はこの戦の中、助けを呼ぶことは無かったが、逆にいつも連携しているという状態だったのだ。
個人になれば弱くなる事、もしかしたら大橋と瑪瑙の様に大喧嘩しなければ和解の糸口すらなくなる可能性があると考えると、馬鹿にすることなど出来るはずも無かった。いつも2人で1つの魔法を使っている。混ぜる魔法の相性が良いからこそ2人は強かった。
しかし、1人で戦い抜いた者達を見て彼女達は魔法に関する認識に変化が現れていた。この戦から変わっていく物が多い中、全く変わりそうに無い者もいるのだが、それはまた別の話だ。今はまだ語らなくとも良いだろう。