茫然、騒然、大接戦-1
ドラッヘナー姉妹は暴れ回り、瑪瑙は狂い、エストは大接戦を繰り広げた中、大橋は兵士数人を第六の剣リングで動きを封じていた。その兵士達は人間の姿となったワイバーンに攻撃され既に兵士だった頃の原型を留めていなかった。
というのも大橋は第十五の剣バルムンクという彼女の最強だった魔法をアッサリと現在人間の姿になっているワイバーンに完璧に防がれたのだ。だが、彼女はそれで諦めずにある一言を伝えた。それを聞いたワイバーン達は途端に兵士達を振り落とし、大橋が拘束した瞬間襲いかかったのだ。
「……また、偶然に助けられた。」
彼女は自分が言った一言からワイバーン達が自分を攻撃しなくなったのを見て落ち込んでいた。いや、絶望に近い状態で有り、ワイバーン達が兵士達をいたぶるのを見る事すら出来なかった。
たった一言、「私を殺さなければ美味しい物が食べられるぞ」。この一言によりワイバーン達は兵士を振り落とした。このワイバーン達はドラッヘナー姉妹が次々と倒している様な雑魚では無く、人間体になる事が可能な個体だった。だが、このワイバーン達の扱いはあまり良くなかった。
現在兵士達をいたぶっているワイバーンは5体。赤色のメギナ、青色のクスノツ、金色のアトリーチェ、銀色のメスタルフォ、黒のマーベルというワイバーンだ。普段は人間体になれる事は隠していたが、それが原因で扱いは不遇だった。
古典に汗血馬である事を知らずただの大食いの馬と思っていた事から餌を満足にやらないという様な物語があったが、このワイバーン達の様子を例えるならこの物語が一番分かりやすいだろう。ちなみに兵士達はワイバーンが人の言葉を理解しているとは思っていなかったので餌代を安く済ませて飲みに行っている事も知っていた。
「……本当に運しか取り柄が無いなぁ…。」
大橋は何度もそう呟いていた。どれだけ格上の相手と対峙しても生き残れるのは一種の才能かも知れない。だが、大橋は人間の姿になったワイバーン達がいつになれば兵士達をいたぶるのに飽きるのかを気にしているのだった。
「……いつになったらこれ終わるんだろ?」
大橋はそう呟きながら耳を塞いだ。ワイバーンだった者達の笑い声や兵士達の骨が砕ける音、兵士達の泣き声が聞こえて狂いそうになる。ただ、大橋が弱かったのでは無い。ただ人間の姿になれるワイバーン達が強かったからだ。
しかし、自分が弱いと再認識した大橋は現実から逃げるように閉じこもろうと耳を塞ぎ、目を瞑り、早く終われと祈るのであった。