VSワイバーン-6
テスタロッサが感じたのはミレダニアの身に迫る危険だった。というのも先程の強い一撃…というよりは瑪瑙の踏み込みの意味を怒りによって我を失いながらも考えていた。かつての戦友と同じ様な匂いを持つミレダニアに危機が迫っている事をテスタロッサは後悔していた。冷静に闘っていればこの様な事にはならなかった筈なのだ。
ただ、テスタロッサがミレダニアのいた場所へと向かった所で見えたのは既に事切れたミレダニアと、彼の首を持つ瑪瑙の姿だった。瑪瑙は翼の付け根を強く蹴り込んだ時、テスタロッサの体を踏み台にしてミレダニアのいる方向へと飛んだのだ。この時の瑪瑙は気付いていなかったが、本来詠唱するはずの文言を言わずとも効果を発動できていたのだ。
その後、未だに立ち上がれなかったミレダニアの首を瑪瑙は何の躊躇いも無く刈り取った。これは前回の初陣の際に情けを掛けてしまった結果、軽傷で済まされてしまった挙げ句、反撃されて殺されていたかも知れない事を思えば至極当然の選択だった。
ただ、テスタロッサは投げられたミレダニアの首を茫然と見つめる事しか出来なかった。もう少し速くこの事に気付けばミレダニアは死なずに済んだかも知れない。以前も戦時中にテスタロッサを庇って死んだ彼の祖父の時と同じ後悔がテスタロッサの脳内を巡って行く。
だが、テスタロッサは降伏する事を選択した。元々老いたワイバーンであった事もあり、限界が来たのだ。もう一度相棒と呼び合える存在を持つ者と供に闘う事が自覚の無いまま彼を動かしていた。しかし、その支えが無くなった今、テスタロッサには相棒と呼べる者とあの世で再会する事を望んだ。
瑪瑙はその思いに答えるかのようにテスタロッサの心臓を貫いた。突撃する拳は神風の如く、彼女の拳をボロボロにしながらも心臓を破裂させ、瑪瑙の顔には心臓の欠片や動脈血なのか静脈血なのかの判断も付かない色の血液が降り注いだ。
瑪瑙は自分が殺した1人の戦士と1匹のワイバーンを見ながら自分の拳を見つめる。骨が折れているのか、掌を開こうにも開けない状態に彼女は少しだけ笑みを浮かべる。
「……最後に置き土産をするのは意地だったんでしょうかね……?」
ひしゃげたとも思える自分の拳はテスタロッサの最期の抵抗である身体硬化を打ち破っていたが、その代償を見て瑪瑙は笑う。未だに降り注ぐ血を浴びながら笑う。ミレダニアの切り取られた首を踏みつけながらなお笑う。
それは瑪瑙という人間が人を殺す為の戦闘力の才能が開花した証であった。ただ、それを本人は自覚せず、ただただ笑みを崩さぬまま、テスタロッサとミレダニアの仇を取ろうと突撃してくる兵達を見て、ニタリと笑いながら迎え撃つのだった。