VSワイバーン-5
「いや、この状況を覆す方法が全く思いつきません!」
瑪瑙はそう言いながらテスタロッサの翼による攻撃を避ける。その翼はアメジストの原石の様な紫の結晶をまとっており、より凶悪な攻撃となっている。ただ、怒りにまかせている為か大振りになっているが故に瑪瑙はどうにか生きながらえていた。
「そもそも、ワイバーンは魔法が使えないのでは無かったのですか!!既に魔法を使っているじゃ無いですか!」
「…いや、それは違う。ワイバーンは体外に魔力を放出できないだけだ。」
モンストロ帝国におけるワイバーンの定義は体外に魔力を放出できない竜の事を言った。簡単に言えばブレスを使えない竜なのである。しかし魔力を扱えない訳では無く、飛ぶ為の身体強化の為に魔力を使用している為、ワイバーンは飛竜と言われている。
現在テスタロッサがやっているのはその応用で、体内の魔力を活性化させて翼を硬化しているのである。それを瑪瑙は魔法とみているが、体外に放出する訳では無いのでミレダニア的には体内の魔力を活性化させる事で出来る体質変化なのだ。まぁ、どちらにしろテスタロッサのやっている事は変わらないのだけど。
「流石にアレを白刃取りする自信はありませんし……逃げ続けるのも無理ですし……。」
テスタロッサの翼がスッキリとした形ならば瑪瑙も白刃取りにチャレンジしようと考えただろうが、いびつな形で硬化している翼を白刃取りする勇気は無かった。その為瑪瑙は必死に逃げ続ける。最初はミレダニアを巻き込もうとしたがテスタロッサの理性がミレダニアを殺す事を拒んでいるのか、それとも無意識で動いているのかは分からないがテスタロッサはミレダニアの振り落とされた方向に向けて瑪瑙が移動する事を拒んでいた。
「…こうなったら一か八か!攻めますよ!」
瑪瑙は逃げる事を諦めたのはミレダニアからかなり離れてしまった事である。しかしこれならば魔法による援護も気にせずにテスタロッサと闘える筈だと思い、瑪瑙は翼を避けながら構えを取った。
「渦巻くは竜巻の如く!雨天廻天蹴!」
テスタロッサの翼による一撃を体を捻ることで避けながら翼の付け根に向けて回転蹴りを放った瑪瑙は、さらに力を入れて付け根に向けたダメージを高くしていた。しかし、完全に切り取る事は出来ていない。……だが、この攻撃により集中力が切れたのか硬質化が解けていった。
「……テスタロッサ……。」
テスタロッサは集中力が切れつつも怒りの矛先を瑪瑙に向けたままだった。ただ、テスタロッサは何かに気付いたのか急いでミレダニアの元へと戻るのだった。それはテスタロッサにとって逆鱗に触れられた怒りも冷め切るほどの走りなのであった。