VSワイバーン-3
エストは強敵が現れた事で逃げるのでは無く、闘うことを選択していた。本来ならば一旦退き、応急処置をしてから闘うべきなのだろうが、それは一対一での場合である。……というのもエストは今、挟み撃ちに近い形となっている。これだと逃げようとしても逆に追い詰められる流れとなってしまうため、最低でもどちらか1人を殺してからでないと逃げるのは愚策なのである。
「現れよ、金炎の化身シシオウ!紅炎の化身スザク!」
エストは先程のキュウビよりも強力な化身を創り出した。シシオウは金炎と言えるように金色の炎を纏ったライオンであり、スザクは先程のキュウビよりも濃い赤色の炎を持つ巨大な鳥だった。この2匹には所々本物の皮膚のように固められた部分があり、先程のキュウビの様に吹き飛ばされる事は無いだろうと思いながら1人と1匹の隙を窺っていた。
「……確かにこれならば難しいかもしれんな……だが、直接出向かなくとも攻撃できる事があると分からぬか。やはりひよっ子だな。」
エルドンはそう言いながらレイピアを何も無い場所に突き刺す。するとエストは何も無かった筈なのにも関わらず左耳の一部を抉り取られるように貫かれていた。エストはなぜこの様な事が……と思っていたが、すぐに焼き付かせてからどこから魔法が撃たれたのか?と警戒し始めた。
これに関してはエルドンが特殊な力を持っている事と、その様な異色な攻撃法を特訓に付き合っていたメンバーが好んで使っていなかった事による弊害がある事が問題となっている。魔法と武術を掛け合わせる感覚をエストは知っていたが、異形の力に関しては全く想像していなかったのだ。
エルドンの能力である【異空間突】はやや厳しい制約を持つが、それでもチートと言える物だった。彼は異空間から相手の急所以外の場所にレイピアによる一撃を当てる事が出来る。これだけならば彼のレイピアを掴めば無力化出来ると思われがちだが、彼の長年の研鑽から摑まれる事は無い程の速さで扱うことが出来ているのである。
ただし、急所に当てる事は出来ない為一撃必殺は出来ない事、連続して使う事が出来ない事が彼が無敵になれない理由である。ただ、相手の動きを鈍らせる事に関しては他の者達を遙かに凌ぐ実力者である。
「……どの様な絡繰りを持っていようと、私は復讐を遂げるまで負けはしないぞ!」
だが、エストも負けずにエルドンに向けて魔法を次々と撃ち、攻撃させないようにしていた。それが、エストが唯一出来る対策だった事もある。
その結果、硬直状態が長く続いていたが、最終的にその場に立っていられた人物は……たった1人。死んでいった者達の誇りを胸に立ち尽くす人影は、誰かが駆けつけるまで静寂を保っているのであった。