モンストロ帝国の戦争準備-3
モンストロ帝国の宮廷魔道士であるボロッカこと、元・富松 陽太は前世でブラック企業に何度も勤めていた。幸運なのは初めの頃はブラック過ぎて労基に訴えられた事によりニュースで話題となった事だろう。それが功を成したのか彼は2度目の就職には困らなかった。
しかしその後彼はブラック企業に勤めては潰れ、苦労して再就職するもまた激務に追われては会社が潰れ……これを繰り返せば来世はスローライフを望むのも無理は無いだろう。実際、彼は魔法の才に恵まれた事から一気に出世して宮廷魔道士となり、元は平民に近い貴族だったのにも関わらず領地を持った。
それまでに彼は自分がいなくても問題ないレベルにまで他の者達を鍛えた事から、後は任せてのんびり余生を過ごそうとしていた。これはボロッカが24歳の頃の事である。……だが、彼は知らなかった。自分の産まれた国の王子達が、一部を除いて権力欲しさに暴走する事、自分が貰った領地が好戦的な隣国と隣り合っている事を。
騎士団全員が揃っていれば隣国など片手間で進撃を抑えられるのだが、3分の1では微妙に難しい。その為彼は権力争いをするのに領地の事を全く考えない王子、王女達にうんざりしていたのだった。
「……スローライフを送るための障害が全部無くなるのはもう少し後だろうなぁ……。まだ結婚してないとか言われてるけど結婚とかしたくないし。前世でどんだけ振り回されたと思っているんだよ。」
なぜか再就職中も彼は振り回される事が多かった。これは彼の兄弟姉妹が不倫やら浮気やらの調査や弁護士の手配、挙げ句は子守等を職が無い時の彼に押し付けたのである。それも後に嘘だと分かる「ホワイトな就職先手配してやるよ」の一言を添えて。
「……俺はもう働きたくないんだ!なのになんで世界はそれを邪魔するんだ!」
好戦的な隣国も侵略できれば良いと思えるが、それをしてしまうと余計に面倒な役職になるのは分かっている。宮廷魔道士という立場はただ強い魔道士なのだという証の様な物で、公的な仕事など滅多に無い。だからこそ彼は宮廷魔道士となり領地持ちとなったのだが……彼は本気で泣いていた。
「この領地に来てまともに昼寝できたのって何日ぐらいだったっけ……?」
バカな王子達のせいで領地を貰ってから数日で問題が発生し、スローライフ定番の昼寝すら満足に行えていない事を考えると、ボロッカはイライラとした気持ちを抑えることが出来ないのであった。ただ、この後、さらなる面倒事が来る事に関して彼は知る由も無い。ただ、手薄になった場所に進軍されぬ様に待機するのだった。