療養の国 メルリス-3
黒姫の事に関しての疑問については説明すればすぐに納得していた。というのも黒姫と似た体質の者を実際に見たことがあるらしい。その人物はその体質から親に売られたという珍しいタイプの人間であり、20歳になった直後に機能停止する様に死んだ後は無限に移植可能な臓器を創り出す装置の様な者に変わったという。
ディー曰くこれは医療界のタブーとなる情報らしい。ただ、黒姫はその人物の様に抗体を作り出すなどの機能が存在しない人間だったらしく、あっさりと捨てられたそうだ。
ちなみにディーはそれを使うことを躊躇った結果、殺されたらしい。まぁ、流石に手術を行っている時に後ろから首を切り取られれば誰だって気付かない内に死んでしまうだろう。だが、そんな彼女は非人道的な事を許さずにいられなかった為、色々としたらしい。その辺りはセバスの兄に頼んだと話していたので詳しい事は分からないのだけど。
「まぁ、夫となる人は元々幼馴染だったんだけど……不器用な人でね……。自分の体調管理も怠ってまでやろうとした結果、助手となれるくらいの教育しか受けていなかったはずの私が主治医にならざるを得ない状況になった訳だよ。」
「……メイドとして支えるはずがプロポーズされたなんて聞いたときは驚いたぞ。まさかあの男にそこまでの甲斐性があったとはとな。それで夫婦で医者として働くとは……医師免許を取って置いて良かっただろう?」
「そういえばセバスも持っていたねぇ。それを全く活かせなかったそうだけど。」
「……まぁ、主に解毒等に力を入れておりましたからなぁ……。結果的に罪を死で逃げるなんて事をされたのだからそれすら熱心では無かったのかと。お前はその時に笑ってきていたよなぁ?」
2人は元恋人とかの甘ったるい空気では無く、悪友同士のサバサバとした雰囲気を醸し出しながらそう話していた。そういえばセバスは母さんの付き添いや訪問医との相談に専門用語を出しながら話していた様に思う。
「……やはり資格を取るだけの試験に合格したのでは意味がありませんな。知識はあれど応用できる訳も無く。」
「応用が利かなかったのは医療だけじゃないかい?」
「……そうですな。しかし、夫に会いたいとは思わぬのか?」
「アイツならもうとっくの昔にこっちに来ているだろうさ。会えないのは私が行動しないからだよ。……っと思っていれば出会えるのだから人生は分からないもんだ。死ぬ前も、死んだ後もね。」
そう言いながらディーは棚の中から結婚指輪を取りだしていた。それを見てセバスはため息を付きながら呆れた様に肩をすくめるのであった。