アベル式格闘術-3
「……アカンな。暫く見取ったんやけどなぁ……とうっちは魔力で壁を作るのは上手くなっとる。やけど全身に満遍なくやっちょるけん些か薄いわ。これやとあっちゅーまに突破されるで。普通の獣でも魔力の壁は意外と簡単に崩せるかんなぁ……。」
実際、全身に満遍なく魔力でオーラという名の壁を作っている彼女の壁は薄い本一冊分くらいの強度しか無い。その為何回もチリチリとした音を出しながら掠れたときに焦げるのである。
「……こよっちなら全身にやったとしてもそこそこの強度にはなる。やけど魔力が増え始めている段階のとうっちには無理な話やな。ちゅーわけで取り敢えず勉強の時間や。」
アベルはそう言いながら氷柱で作った短剣を瑪瑙に渡していた。瑪瑙はやや混乱していたが、アベルが続けた言葉にはうんと頷くのだった。少なくとも次の訓練は苦痛を伴わないと思ったのだろう。
「これから魔力障壁の応用を見せちゃるわ。まぁ、遠慮のうなしに斬り込んでみ?大丈夫や。まだまだ未熟なとうっちの攻撃なんかで俺っちは死にはせんしなぁ。」
「……分かりました。なら全力で行かせて貰います。」
こうして瑪瑙はアベルの後ろに回り込んでから首に向けて短剣を突きさそうとした。だが、短剣はアベルの魔力でできた障壁により阻まれてしまう。ならば先に脚をと思ったのか太もも辺りを切り裂こうとするも、今度は紙を切ったような感触しか無く、実際にアベルの脚は無傷だった。
「……それなら……ここ!」
正面から心臓に向けて短剣を突き刺すように動いた瑪瑙だったが、これも障壁に阻まれてしまう。ただ、障壁を自在に操っているのか短剣が岩に突き刺したかの様に抜けなかった。かと思えば泥に突き刺していたかの様にすっぽりと抜けた為にバランスを崩してしまう。
「せ、せめて一撃……。」
瑪瑙は最後に一矢報いようと短剣をアベルに向けて振りかぶったが、障壁に阻まれ弾かれる処か粉々に砕け散ってしまうのだった。その様子を見てアベルはクスクスと笑いながらも倒れた瑪瑙を引っ張り起こしていた。
「これが本来の障壁の使い方っちゅー感じや。まぁ、多少応用せんとあかんトコあるけどな~。」
「……完全に何されたのかさっぱり分からないのですが……部分的にオーラを変化させる事が重要って事ですよね……。」
瑪瑙がそう堪えるとアベルはフフッと笑いながら肯定する。ただ、それも半分だけだったが。
「まぁ、急所にほんのちょいと強めに固めるイメージをする事が重要やな。魔力による障壁は優先度が自由に変更できる。やけん、全身を等しく守る事はまだ考えんでもえぇ。まぁ、最低でも氷柱の短剣を折れる位には強化してもらわんとあかんけどな。」
その言葉を聞いて瑪瑙は心が折れかけたがなんとか踏みとどまったのであった。