アベル式格闘術-2
アベルはただひたすらに動かないという訓練法をどこで思いついたのかについてフェイント攻撃を瑪瑙に打ちながら考えていた。というのもアベルの経歴は誰かにそれを習う期間など存在していないのだ。というのも2人の女性に育てられていたアベルはその2人を殺すまで、彼女達が師匠と呼べる存在でもあった。
しかしこの2人からはバルボアの様な基礎しか教わっていない。そして、それ以降アベルに師と呼べる存在はいなかった。しかし、自力で見つけ出した方法とは思えなかった。
これは厳坊と呼んだテンレの事も関係している。ただ、自分の中にもう一つ違う記憶があるのでは無いか?と感じるようにもなっていた。実際バルボア達が持ってきた熟成肉も何処か懐かしさを感じていた。……そして、その調理法までもが頭の中で再生されるかのように理解できていたのだ。
「まぁ、考え事しながらやと手加減ミスるけん考えんのは辞めとくか。しかしまだ動いてるで?」
「……集中しようにも……気になって……。」
「気にするんにしても見る方向間違っとるで?」
「……分かっているんですが中々難しいですよ。眼を瞑ってみたらそれはそれで動いてしまいますし。」
「眼ぇ瞑って攻撃躱す奴はいるけんどもそれかなり面倒やで?」
実際、眼を瞑っても回避できる程単調な動きならばまだしも普通はそれをしない派であるアベルである。まぁ、彼が倒そうとしていたガンダレスという男は片目を潰された直後に眼を復活させる事が出来る事も関係しているのだが。
「眼ぇ瞑って避けるのはえぇけどフェイントにはより弱くなるで?少なくとも俺っちはそれで油断した事は無いんやけど知り合いにそれで大ポカした奴がおったわ。」
「……そうなんですか?」
「ソイツはそれなりに筋が良かったんやけど……集中するためとかゆーて瞑った時点で死んだ。いや、死んではおらんけど再起不能になっとったわ。まぁ、フェイント処か情報量多すぎて避け切れなかったっちゅー話になるわな。」
訓練用のフェイント攻撃の手を緩めぬままアベルはそう話していた。ただ、僅かに魔力の障壁に攻撃が擦っていく感触を感じていた。しかし、彼女の障壁はまだまだ未熟だとアベルは思っていた。実際剣城と焼き肉をしていた際、肉の取り合いになった時……剣城は無意識に魔力障壁で腕をカバーしていた。それに何回か本命だった肉を掻っ攫われている。そう考えるとスパルタにしても成長が遅くなりすぎると考えながら瑪瑙の訓練を続けるのであった。