アベル式格闘術-1
「……そんな訳でアベル式格闘術を始めるで。まぁ、そない難しくはあらへんし、深淵に辿り着けなんて事も言わん。今回はただ、俺っちの攻撃を避けるだけでえぇわ。」
アベルの訓練法は最初にその訓練を受けた瑪瑙が毎日フラフラとしてしまう程疲労が溜まる訓練だった。というのもアベルが最初に行った訓練は攻撃を分析する為の訓練だった。バルボアが基礎から始めようとしていたのに対しいきなり応用編というか実戦で必要な物を掴む訓練である為、体が着いていかないのは当たり前なのだった。
「……この訓練ってクライアさんの訓練よりも疲れましたよ……。どんな攻撃も避けずに止まっておけって訓練だったのですが……もう2度とやりたくないですね。」
「……そんな淋しい事言わんといてな。この訓練はお前さん等と同じ年の奴にやらせていた事もあるんや。そん時はフツーについてきとったんやけど。これまだ第一段階やで?せめてフェイントにびびらんといて欲しいわ~。」
実際、アベルが瑪瑙に訓練用として放っている攻撃の殆どがフェイントである。一応寸止めはしているが、限りなく近い寸止めの為、擦るだけでも激痛が走る。ただこれはアベルが手加減しているからこそそこまでで済んでいる為、瑪瑙は何も言えなかった。
「どんな攻撃も回避するっちゅーのは重要な事や。けど重要すぎて逆に避けて移動する場所を予測して攻撃するっちゅー戦略が主流になる時もある。避けた先が相手の本命となる事なんてしょっちゅうや。格闘ゲームとかではやれてる奴おんのになんで現実でできないか分からんわ~。」
「現実だと体が反応しないんですよ……。それにゲームの中と違って恐怖感が格段に違います。……いや、ゲームの中でもたまに避けなくても良い時に回避アクションしちゃいますけどね……。」
瑪瑙の言葉を聞いてアベルはうんうんと頷いた後、やり方を少し替える事を話してきた。それはアベルにとっては簡単でも瑪瑙にとってはやれるかどうか分からない事だった。
「……なら難易度ちょいと下げるで。とうっちは魔力関連もそこそこ使えるようにはなってるんやろ?ちゅーわけで魔力をまとうイメージに集中するんや。そうすれば多少は避ける事できなくなるやろ?それに魔力コントロールもできるわけやから一石二鳥や。」
「……そ、それくらいなら……。」
「まぁ、初日やし最低でも5分は動かんくらいになっときや。これまで秒単位で回避する事も珍しく無いんやからなぁ。」
アベルのその言葉から瑪瑙はフェイントを見抜く目を鍛える訓練に奮闘するのだった。ただ、夕食を食べられなくなるまで疲労したのでやはりもう2度とやりたくないと感じてしまうのであった。