バルボアブートキャンプ-3
「……まず、戦闘に関してだが……実戦経験が少なすぎるんだよな……。話を聞く限り仕方ないのかもしれないが。」
バルボアは転生者である2人のこれまでの生活に関して話を聞いてみると、バルボアの幼少期とは違い闘いとは程遠い世界で生きていた事が分かっていた。バルボアの様に平和に過ごした期間よりも闘わなければ生きていけない時期が長かった者からしてみれば想像すらできない世界だった。
警備会社の娘である瑪瑙は護身術から少し先の格闘術も学んではいたが、あくまで自分の身を守る事を優先していた。その為体の基礎は他の2人に比べれば安定していた。だが、それでも鍛錬で忙しいというレベルでは無いペースだった為、絶賛できるレベルでも無かったが。
「……しかし騎士団とやらは明らかに実戦訓練を怠っているな……。恐らく新人だから基礎を中心にしていたんだろうが……モンスターくらいは流石に殺せると思うんだが……エストの場合は魔法に頼りすぎている現状をどうにかしねぇとな……。」
「そうですね。回避や移動にしか肉体を使っていませんでした。牽制とかで体術などを使ってきたらもう少し手間取ったと思いますよ?私は基本的に体術のみで闘うので。」
グラノアはそう言いながらシャドーボクシングをやってみていた。まぁ、グラノアは異母兄弟姉妹から痛めつけられたり冒険者達に爪を剥ぎ取られたりしていた為、杖や剣を持つ事が難しくなっていた。握ったときに手に馴染みにくく、振ろうとすればすっぽ抜ける時もある。
「……武器を使わない戦法は別に否定しませんが、体術を使わない戦い方なんてありませんよ。固定砲台という概念になる覚悟が無い限り。」
「取り敢えず体術の大切さを教えてやるか……そうすれば今後の訓練もどうにかなるだろ。」
「バルボアブートキャンプですよ。」
「……お前、本当にあのビデオ?に囚われたな……。まぁ、暇つぶしにずっとやっていればそうなるのも仕方ないと感じるがなぁ……流石にその名前はどうかと思うぞ。」
そんな風に話していると大橋とエストが立ち上がっていた。ただエストは苦虫をかみ潰した様な顔でグラノアを見ており、大橋はそんなエストを宥めていた。
「……暫くの間は3人での乱戦で訓練した方が効率が良いと思えてきますね……。なので私はあれを極めてきましょう。握力とかも強くしていきたいですしね……。」
「……あれって筋トレよりはダイエット目的で輸入されたんだけどね……。」
大橋の言葉が届かないまま、グラノアは訓練場(仮)を去って行くのであった。ただ、この時にバルボアは気付いていなかった。この時にグラノアを引き留めなかった事でアベルの魔の手が近付く事を許してしまった事に……。しかし今のバルボアにはこの3人をどう鍛えるべきかと考える事しか頭に無かったのであった。