番外編 旧ゲーテンベルド王国-1
ゲーテンベルド王国という王国は平和を保った国だった。モンスターを優に倒せる冒険者達や周辺国を容易く駆逐できる程の強さを持つ龍騎士団……そして民を思い尽くす王族達と、国民の誰もが幸せを感じられるような国だった。そこで野心を持てばすぐ駆逐される為、悪人も存在しないこの国は、ある意味この世界で最も幸福な国民が多い国……である筈だった。
ドラゴンを睨むだけで従僕させると言われたガイエス・アーカットという男がいた。彼はこの国に滞在する冒険者の中で最も強いと言われる剣士だった。彼はその剣で幾多のモンスターの強襲を退けてきた。……だが、彼は土の塊と言える雑な狼により呆気なく食い殺された。ドラゴンを一振りで細切れにすると呼ばれた【龍滅のハンニバーラ】は土くれの狼により呆気なく砕かれ、彼は内臓をグチャグチャに食い尽くされた後に他の冒険者達に発見された。
最早大陸を統べるに相応しいと呼ばれる可憐な龍騎士団長、マーケル・アシアスランという女がいた。彼女は女でありながら国で最も強いドラゴンであるメディストフレアを従え、【殲滅王の槍】を片手に縦横無尽に国を滅ぼすと言われていた。そんな彼女はにこやかな笑顔をした青年により、彼女が従えていた計800万人の龍騎士達と供に殺された。青年はにこやかな笑顔をしながら剣を一振りしただけで彼女達龍騎士団を全滅させたのだ。そして青年は地面をくるっと引っ繰り返し、龍騎士団の死体達を雑に埋葬したのであった。
平和を統べる王、フラウス・ゲーテンベルドという王がいた。彼は圧倒的な力と民を思いやる心を持ち合わせた完全無欠の王であった。しかし彼の目の前には死地が広がっていた。冒険者達は賊の長の様な風貌をした男達に皆殺しにされ、思い尽くしてきた民は褐色の肌を持つ少女が無邪気な顔で爆殺していた。生存者がいて欲しいと願っても残っているはずが無いと感じられる程、爆発跡に残る物に絶望していた。
そんな彼の目の前には氷の矢で貫かれた王妃がいた。宰相や大臣、元騎士団長や冒険者ギルド長も同じように心臓を氷の矢で貫かれていた。それは彼の息子や娘である者も同じだった。ただ一人だけ、ゲーテンベルド王国の民が生き残っていたが、彼は彼女に逃げろと言うことは出来なかった。
「……お父様、私はずっとお父様を殺したかったんですよ。」
少女はそう言いながら笑っていた。彼女の名はグラノア・ララシンバート……彼が唯一強引に子を成させた女の娘である。彼の母親は平民だった。しかし彼は彼女に恋をした……だが、平和を語るその国の王子だった彼は彼女と結婚することが無理であると分かっていた。………そして、彼女と強引に交わった結果、グラノアが産まれた。だがその時に彼女が死んでしまった為に彼は今のような平和な国を作り上げる結果となった。
「結果が良ければ全て良しなんて甘いんですよ……。私はずっと惨めな暮らしをさせられてきた。平和を騙る偽善者の様な貴族からはずっと迫害され続けた。母さんを殺した時点で貴方は既に平和な国の王にはなり得なかったんですよ。私の片目は不等な監守によって抉り出され、右腕の傷は貴方の本当の子供達による物だ。爪は剥がれ粉々にした物を冒険者達に喰わされた事もあった。あの騎士団長は私を騙してひたすら慰み者にしてきたなぁ。その時に聞こえた貴方の名前……不快すぎて何度も吐きそうになった。だが、これでもう終わりだ。全て……終わりだな。平和という偽善で出来た貴方の王国は最期を迎えるんだぁぁぁぁ!!」
愛した女から産まれた娘によって、彼は死んだ……かに見えた。しかしグラノアは彼に魔法を使い、拷問する事を決めていた。それから数時間の間、彼は涙1滴を流すことすらできない状態のまま、拷問に掛けられていくのだった。