オコソール河-4
【罠館】に閉じ込められたアドンは自分がなぜこんな目に遭わなければならないのかと憤慨していた。しかしジルフェは既にそこを去った後であり、自力でここから抜け出す事ができない事も、この世界が永遠に終わる事が無いのも分かっていた。ただ、焼けただれた肌を無理矢理こねくり回されてしまう事がどれ程の苦痛だったのかと言うほど、彼は絶望に染まっていた。
一歩歩けば何かの罠に掛かり、死ぬ直前まで痛めつけられた後にビデオを逆再生する用に同じ痛みが戻ってきて普通に戻る。この館からは出られない、しかしずっと立ち止まっていても恐怖だけが募っていくばかりの為、彼は必死で罠を避けようとする。しかし彼は主人公では無い。いや、逆にこの罠館に入った主人公だからこそ、成長できなかった。
「やめてくれ……俺が、俺が何をしたって言うんだよ!たった一度だけ戦争に参加しただけじゃないかぁぁぁぁぁ!!」
そうなのである。彼はリューミケル軍帝国の運営に関われなかった。次期皇帝候補でありながら、皇帝の息子でありながら……彼は権力も政略も何も使えなかった。ただその恩恵である暮らしを思う存分堪能していただけだった。今思えば悪政を止めれば、戦争を止めていれば罪にならなかったと考えられるかも知れないが彼は恨み言を何度も何度も繰り返しているだけだった。
ただ、彼の叫びは上からギロチンの様な大きな刃が振ってくる事で途切れた。彼は確かに真っ二つになり小腸や大腸などの管状の臓器ボロンととびだしていた。しかしジルフェの使った能力により時間が巻戻る様に彼の小腸や大腸が身体の中に押し込められていく。まるでコード類を無理矢理箱の中に入れる時の様な痛みを感じたアドンはなぞなぞで回避しようとする。しかしそれも正解の部位にチクリと針が刺さる事で解けてしまうので意味が無かった。それに加え針もただ刺さるだけで無く遊び心で種類が増えていた。
ある時は身体がドロドロに溶けて脂肪の塊になった所から元の人間の身体に再構築されたり、またある時は親指から順に風船をパンパンと破裂させられる様になってからこねる様な形で再構成されたりした。しかし彼が限界だと言ったとしても彼が【罠館】から出られる事は無い。なんせ、ジルフェはとっくの昔にアドンの事を忘れている。もし解除するとしたら間違って味方を【罠館】に入れてしまった時に急いで解除した時くらいだ。……つまり、もう彼は逃げる事など出来ない。出来るにしても何十年、いや何百年掛かるか分からない。数分で心が崩壊する【罠館】でそれは確実に心が壊れてしまうだろう。しかし彼はもう出られない事を信じられないのか館の中で叫び続けるのであった。