エケセント山-3
アベル・ヘルレーガンは昔から周りの人間とズレていた。周りの人間が善人や英雄になろうとしているのに対して彼は悪人になりたかった。だが、彼は行く先々で悪を演じきろうにも勘違い等から救世主だったり英雄だったりと、誰も彼を悪として讃える事は無かった。
魔王と魔王が混じり合い産まれた彼は孤児だったが、彼の望んだ劣悪な環境は無い。慈愛に溢れたシスター達がただの子供として彼を育てた事に彼は心底苛立っていた。だからこそ彼はシスター達を殺した。しかし周りは彼が悪人である事を認めようとしない。シスター達はどこかに旅行に行ったと信じて疑わなかった程だ。だからこそ彼は自分の生まれ故郷を滅ぼしたのだった。
「でも行く先々で英雄だとか言われても意味が無いんや。だからこそ俺っちはダレっちの様な奴と闘うのが好きなんや。逃げる事=悪人のする事に近いしなぁ。ほんま、絶対正義な英雄様々やで」
「………氷漬けにしてきておいて何をいうか。」
「だってそれが俺っちの専売特許やし。氷使う奴は悪役に多いわ~。俺っち視点の話でやけど、ランルドロスとかめっちゃ悪人やで。周りからもそう思われとるし羨ましいわ~。俺っちは逃げても英雄殺しても善人と思われるんやで?」
「……黙れ、仲間の仇が。」
「おぉ、怖い怖い。けどその目がえぇもんや……。」
実際彼はリューミケル軍帝国に来た時も皇帝から「ようこそ英雄様」と皮肉も入っているが英雄と呼ばれている。それが彼の中の悪人的な感情のフラストレーションを強くしていたのだろう。だが、そんな彼は自分を悪人と呼ぶガンダレスの存在にとても喜んでいた。なぜなら彼は、ガンダレスのいた騎士団のメンバーの1人……アンシュルテを殺害しているからだ。
「いや~、ダレっちと何回か闘う内にその冷たい視線に憧れてなぁ……俺っち氷使いやから余計に憧れて……」
「黙れ。」
「湿気てるわ。ダレっちのノリの悪さに俺っちは非常にガッカリしてますわ!でもそこがええんやなぁ……。やはり仲間を殺した相手はどんな奴でも悪にするダレっち最高にえぇわ!極悪人っぽくなった気分やもん!」
そう言いながらアベルはボウガンの銃口をガンダレスに向ける。その構えを見てガンダレスはアベルの構えがアンシュルテを殺した時と同じ構えだという事に気付いた。だがそれに気付いたのも束の間、アベルはその矢を撃ちはなったのだった。
「【三十の矢 武神】。」
その矢がガンダレスの近くで爆発した後、アベルは呟いていた。
「………ダレっちは相変わらず反則技を使うわ……。まぁ、俺っちの心は全く持って痛まないんやけどな。」
アベルはそう言いながら盾として使われた【アンデッドール】の元となった人物の事を思い出しているのだった。彼が極悪人と呼ばれそうだったのが、勘違いでそうならなかった時の事を。