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ウクス渓谷-2

2人は鍔迫り合いを終わらせた後、再び刀を構えて相手の出方を窺っていた。一見間合いの差で不利なのは國丸だが、テンレも長い刀を縦横無尽に振り回す事が出来ない状況である為、状況は五分五分となっている。


「良いねぇ、魅せられるねぇ!やはり漢2人の決闘には桜が似合う。さぁ、供に舞い踊ろうか!!」

「そうだなぁ國丸屋!儂も一華咲かせてやるわい!」


その掛け声と供に2人の斬り合いは続く。テンレが太刀を薙げば國丸はそれを避け、國丸が仕込み刀を突けばテンレは軽業師の様に飛び跳ねながら避ける。しかし2人の服に傷は付かず、肌から血が流れる事も無い。まるで打ち合わせをしたかのような殺陣の様に2人は舞っていた。


「そういえばお前の舞台は何度も見たのぉ。確か演目は〖スジコロッケ入り和牛膳〗じゃったかのぉ?」

「違う!その時の演目は〖阿古屋〗じゃ!まぁその時は女形もやっとったからの!」


これは國丸が人間国宝と呼ばれる由縁の1つである。男役も女役も完璧に使いこなし、その両方で完璧な演技を行う事が出来る彼はまさに国宝と呼ばれても可笑しくない者だった。それも歌舞伎に興味の無い子供でもそれに見とれる程であり、最初から歌舞伎座で出される肉入りの弁当にしか目が無かったテンレ以外は休みの日に歌舞伎座へ向かう者も多かったという。


「しかしそちらの紹介する店にも言ったが……美味かったの、〖とろ~り玉子の海鮮オムレツ〗は!」

「その店で食べるのは〖ふんわり卵のビーフオムライス〗じゃろーが!それをコンソメスープのセットと供に食べるのが普通じゃ!」

「すまんなぁ、それずっと単品で頼んどったわい。孫にも勧めた事があるしのぉ。」


現役を引退した後に時間が出来た國丸は色んな店で食事をする事を楽しみにしていた。その中で見つけたのがテンレの書いていたブログだ。これは暴力団とは分かり難いところに小さなリンクがある事以外は関係が無い美味い店を紹介する物だった。そのブログで気になった場所で急に海鮮料理を食べたくなってから今の会話に続く事を連発するのだった。


見た目とは裏腹にそんな言葉で斬り合っている2人の周りでは大量の桜の花びらが散っていき2人の闘いを彩っていく。散りすぎた桜の花は残り1枚となってしまったが、その1枚は彼等の周りに広がるのでは無く、2人の斬り合っている中へと進んで行く。そしてその花びらが4つに切り分けられた後、彼等2人は同時にこう言った。


「「儂の負けじゃ。」」


こうして2人は刀を鞘に戻してから感想戦ならぬ飲み会を始めるのだった。どちらかが後出しすれば勝っていたなぁと笑い合いながら酒やツマミを取りだして食べながら駄弁っていくのであった。

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