番外編 月は氷の惑星でした-4
さて、天文台で研究を続ける者達……ある国の第2王女と別の国の元王を加えた8名の事について語っておこう。この8名の中で指揮を取るのは前世でも天文学者だった萌葱 嵐人ことモエギと同じく天文学者だった南沢 圭ことナミだった。彼と彼女は前世では同じ天文台で働いていた……といっても出会ったことは無い。なんせモエギが定年で退社したのがナミの入社する7年前の話なのだから。
だが2人は同じ夢を見ている事やいくつかの共通点からこの世界で結婚した、宇宙を目指す者達の中で最初に結婚した者達である。まぁ、特に夫婦らしいことはしていないのだが……。
この2人以外に転生者は元気象庁勤務だった大門 猛くらいであり、残りは星の観測に魅入られた現世の人々となっていた。ただ、魅入られる事に立場は関係なかったらしく、元カルミア王国国王のシェバー・カルミアとナッセル王国の第2王女であるクラミー・ナッセルが銭湯を始めてから五日目辺りから参加し始めた。
最初は全員が驚いていたものの、すぐに順応して供に夢を追う者として仲間意識を芽生えさせていた為、あの2人の胃痛は無駄と言っても良いだろう。ただ、彼等はより遠くが見える様にする為にはどうすれば良いかを考えていた。
そんな時にシェバーから発せられたのは【天視】というスキルだった。これは魔法に近いスキルである為魔方陣で再現可能な視力を強化するスキルであり、シェバーがこの天文台に参加したいと願った理由でもあった。
「このスキルを掛ければより月の構造が鮮明的に映るようになる。そうなればより打ち上げなどでのリスクが減る……。」
「ピントもズレませんからかなり良いですよ……。」
「そうか、それは良かったわい。元々【王の信託】の儀式で授けられたスキルなのじゃが、遠くを見るだけでは何の意味も持たんからの……。」
カルミア王国の王家の者は【王の信託】によりスキルを授かり、それを民の為に使うという事が義務づけられていた。基本は豊穣やら戦闘系なのだがシェバーが手に入れたのはこのスキルだった。その為にシェバーはスキルを活かすために勉学に励み続けていた。その結果、彼は良き王として君臨することが出来ていたのだ。
「まぁ、これからさらによく見える様にしておかねばならんからの……。しかし、この天体望遠鏡は太陽は直接見れないようになっているらしいの……。」
「肉眼であの光を見ても眩しすぎますからね……。、これで拡大して見るとなると軽く失明します。この世界なら治療も難しくないかも知れませんが念のためにそうしています。」
モエギはそう言いながらクラミーの方を見た。クラミーは参加した途端直接太陽を見たいと暴走した為に太陽が見れないというシステムを設定することになったのだ。……まぁ、現在は魔方陣に関しての研究で忙しい為に暴走することは無いのだが、2人は暴走時の事を思い出してため息をつくのだった。