アッシルベン魔帝国からの帰還-3
「という訳で、今日の夕食は牛丼にしてみた。」
「牛丼?あぁ、一応アッシルベン魔帝国でもありましたね……。実際にはかなり酷い物でしたけど。」
レンが暗い顔でそう言ったのでなんとなく想像してみると私も吐きそうになってしまう。一応肉は存在しているし最悪ソース等を使えば良いだろうと思うのだが……肝心の米が全て砂糖となっているのだろう。普通の牛丼の具でも砂糖醤油になり大量に食べるにはベトベトした物になりそうだとも感じてしまう。
だが、私の作った牛丼は普通に米を使っていた為、シェドンとレン、ヘレンにレルミーはあっという間に完食してしまうのだった。特にレンが泣いている……というのも故郷の味と称して食べさせられる事が無かったことがありがたいらしい。
まぁ、お袋の味というのは普通に食べられる味である事が最大条件だと思える。食べて不快になりやすい砂糖や塩の塊をお袋の味とする事は不可能だろう。塩っぽい漬け物とかはよく聞くがアッシルベン魔帝国レベルとなると拒絶するのは仕方が無いことだ。
「……まぁ、これに関してはレシピを教えるから問題は無いな。一応砂糖の他にこちらでは小麦畑やら養鶏牧畜等もやってるから砂糖も適量でやれる事物も大いからな。」
「……少なくともあのステーキよりはまともですよね?」
「そのステーキは食べたことは無いが多分マシだ。食べ過ぎたら糖尿病になるのは変わらないがな。」
実際『アッシルベン型糖尿病』にかかっていないからと言って糖尿病にならないという事にはならないのだ。ただ、『アッシルベン型糖尿病』の発症が異常な程多いだけでこの世界にも糖尿病になってしまった人間は少なくないだろうと思う。
「まぁ、あれだけ異常な物が開発されているのにも関わらず綿飴を見かけなかったのは笑ったが……ここでは作ること無いな。」
「綿飴ってなんですか?」
「砂糖だけで作るふわふわな菓子の事だ。作るには専用の装置が必要だが私は持っていないからな……。」
異世界に来てまで食べようとは思わないが稼ぎ安い商品でトップ10に入りそうな綿菓子をこの世界では作らないことに決めた私は、全員が食べ終わったのを確認してアイテムBOXに食器類を入れる。水洗いをしても良いのだが洗浄結晶の入っている物に入れた方が速く処理できるのでそうしているのだった。
「……じゃ、暫くしたら寝るかな……。ただ、今夜はお楽しみは無しにしてくれよ?」
「「……分かってますよ、そのくらい。」」
とりあえず私は明日に宿屋で定番のセリフを言う事が無いようにシェドンとレンに釘を刺してから眠るのだった。まぁ、他の国との交渉が一段落してバレーシア農帝国に戻ったら早速お楽しみを始めそうだけどね…。