アッシルベン魔帝国との取引-3
「先程使われた魔法はなんでしょうか?私達の開発した『人工洗浄結晶』は並の『火魔法』や『炎魔法』ではダメージを与えられない作りになっている筈なのですが。」
「……『煉獄魔法』だが、それがどうかしたか?」
「『煉獄魔法』……確かこの国が出来る前……『アンクシタークス神魔帝国』の者がその存在を明らかにした魔法……ならば納得です。」
……無口である筈のグレンとアシュリーが何故か饒舌になる程、『煉獄魔法』をここで使うのは間違っていたかと感じる。いや、実際はそれが進化した『獄炎魔法』や『獄炎帝』も存在するのだが……言わないでおこう。
「……それ程の力があるならば魔帝国の嫁に相応しいじゃろ。」
「次そんな事言ったらその口が永遠に塞がることになりますよ?それでも良いなら話を続けてくださいな。」
「やめておけ、ジューマ。お前の見た目じゃ誰も求婚してこない。ましてや1日にも満たない時間でハンバルシア軍帝国を滅ぼした奴だぞ?お前では相手にすらして貰えないだろうよ。」
「………儂の発明力は誰もが羨む物なのだぞ?それを振る奴には特製料理はやらぬ。この国では喰えぬ様に手配してやるわ!!」
いや、別に構わないのだけどね……。ジューマの特製品といえばあの砂糖の塊だろうし。ただ、これ以上身内話をやらせる訳にはいかない為、私は先程私達を洗脳しようとした事に関しての交換条件を出す。まぁ、王族という訳では無いがまとめ役は必要だろうという事の為だ。
「面倒なので、シェドン・マーカーと彼女の希望する料理人1名をバレーシア農王国の所属とさせて貰う。それで良いか?アッシルベン魔帝国国王。」
「あぁ、それで許されるのならば条件を飲もう。シェドンもそれで良いか?」
「問題ありません、父上。」
シェドンはそう言いながら私にだけ分かるようにサムズアップする。まぁ、シェドンをこちらの国の所属にしておきたいのには色々な理由がある。……決して駆け落ちの手助けをしようという訳では無い。むしろ彼女を納得をさせる為に駆け落ち的な条件にしたのだ。
奪い取られたとか勝手に国を変更した、裏切ってこちらに来たとかでも無ければ戦争が起こる可能性が上昇してしまう。それを防ぐ為、やや強引であるものの公式な場で正当な理由を付けて引き取っていれば無理して戦争を仕掛けてくる事は無いだろう。
で、シェドンを選んだのは彼女が最も標的になりにくいからだ。というのもシェドンは末っ子でありどの兄妹からも悪く思われていない。つまり、これ見よがしに戦争をしてくる者はいないのだ。まぁ、能力も高いし『アッシルベン型糖尿病』も発症していない為、『グローマ』の効果も重なって長生きするだろうと思う。なので最悪元ハンバルシア軍帝国の王女二人が病没しても代わりを任せられるという訳なのだ。
……まぁ、一応Win-Winの関係になっているし、もう一人の候補だったオルトビはアッシルベン魔帝国側の王になって貰わなければと感じた為候補から外したんだよなぁと思うのだった。