殺戮帝-3
大平原と市街地の境界から10メートル程離れた場所に来た時、私は無意識に『ハルバード』を取り出して降り注ぐ矢をぶった切っていた。まぁ、私が正面からしか来ない事は分かっているのだ。当然大量の矢で私を殺しにいくのは間違った戦法では無いだろうと思える。
「まぁ、あれだけの竜巻を使ったという事で魔力切れたとかでも思っているんだろうけどな……正直、この外見だと舐められやすいんだな。まぁ、その分楽な時もあるが。」
私はそう言いながら市街地にいる軍人達に『アベシオン』と唱えた。これは『殺戮帝』になった時に派生してきた『殺戮魔法』の1つであり、名前の由来はこの世界でいう嫉妬の神の1人の名前らしい。まぁ、神を創り出すわけでは無いので名前負けも良いところだが……。
「いくらなんでもあっさりと死にすぎだろ……。せめて30秒は抵抗して欲しかった。」
『アベシオン』は簡単に言えば糸で相手を切断していく感じの魔法となっている。実際軍人達が次々と輪切りになる姿は滑稽というよりはグロテスクに感じてしまう。まぁ、アニメなどではよくある表現かもしれないが、鎧までズタズタになる事は滅多に無いだろう。
「しかし、今回は血の海になる程血液の量が少ないな……。あぁ、『アベシオン』の糸が血を吸いまくったのか。まぁ、元となった神話が神話だしな……。まぁ、とりあえず弓矢の舞台も全滅した事だし、さっさと城に向かいますか。」
私はそう言いながら城に向かって走り出す。ちなみに家の中にいる者は攻撃しないことにしている為、敵と遭遇しない限り止まる必要は無いと思えた。まぁ、市街戦をするならば掛かって来いというスタイルだけどね。
「しかし、神話を元にした魔法はやはり規格外なんだよな……『オラージュ』しかり、『アベシオン』しかり。まぁ、『アベシオン』はより忠実に再現されている感じだよなぁ……。」
『アベシオン』に使われている糸は、愛の神『ルアジェル』に好かれる誠実の神『マキナルベ』に嫉妬した『アベシオン』が『マキナルベ』から彼の母親である富の神『ベトレーディア』の血と父親である不死の神『ランクタレルバ』の血を吸い取る為に創り出した物とされている。
……結局は血を抜かれた事で虚弱となった『マキナルベ』が糸の拘束に耐えきれず輪切りとなって死亡したという形で『マキナルベ』は死ぬものの、神話にありがちな展開……彼の死体からまた別の神が産まれるという物となっている。それについての説明は省くけどね。
ただ、私はハッキリ言えば殲滅を行っているのだが使ってる武器だけ見ると地味に聖戦になってるよな……とも考えてしまうのだった。まぁ、聖戦とは全く関係無いと言えるほど、市街地には教会などが無いけどね。