王魂の林檎と王の器-2
ゆっくりとガンダレスが近付いてきているのを感じた私は、もう逃げられないと諦めていた。少なくとも『殺戮魔法』は使っても無駄な事は分かっているし、奥の手的な『時空帝』も発動できない事も理解していた。もし使えていてもガンダレス相手だとすぐに突破されるしなぁ……。
ただ、闘うことを諦めたという事は当然のように頭の中が死への恐怖に塗り替えられる事と同じだ。なんせ、もう反撃をするという希望の光も持っていないのだから、死への恐怖という闇だけの思考になるのも仕方の無いことだろう。
ただ、死への恐怖が最高潮になっている為か、後7歩でガンダレスが私の前に来るという事を把握できてしまう。たった7歩で私は死ぬ。運が良ければ『アンデッド』等に転職するかもしれないが、ガンダレスが目の前にいれば逆効果になるだろう。
ただ、私は自分の死の後に何が起こるのかを考えていた。ただ、ガンダレスの殺してきた転生者の中には私と親しい人間はいなかった。つまり、生徒会メンバーや学園長にデザイナーや市長一族のアレに黒姫…それに、まだ見ぬ母さんは殺されていない事は分かってきた。
ただ、親しい人間がそのリストにいなかっただけであり名前を聞いたことあるような者は殺害していた。ただ、彼等の共通点がこの世界の住民を複数人殺した事がある事だった。殺害の理由が正義でも悪でも関係無いという事は、私が殺され掛けている事から明らかである。……実際私が殺したのは悪質な賊だけなのだから。
そう考えている間にもガンダレスは1歩、また1歩と近付いてくる。1歩、また1歩と踏み出される足音を聞く度に私の中の『死にたくない』『怖い』という言葉が加速していく。それが原因で私は自分がどんな殺され方をするのか、いつ殺されるのか、殺されるまでの時間は?と頭の中が完全に逝かれた。もう生きる事すら望めなくなっていると思えるくらい、安楽な死を望む方へとシフトしていた。
ただ、最後の1歩を踏み終えたガンダレスはある物を取り出した。それは拷問するための道具には見えず、人を殺すための凶器でも無かった。だが、凶器に成り得そうな程不気味な輝きを見せるそれは、一瞬鈍器になるのか?と思えたがガンダレスがそれを軽く千切ったのを見れば鈍器として使う気は無いと判断できた。
……どうやら私の人生は、黄金に輝く林檎を食べさせられるという毒殺で終わるらしい。普通の林檎ならば死ぬ前に食べたいと感じるだろうが……如何にもな黄金の林檎を見て私は、それを『鑑定』する。ただこの行動は余裕が生まれたのでは無く、苦しまずに死にたいという本能からだろうと思いながら、林檎の正体を確認するのだった。




