誘導-3
ただ、『獣達の回旋曲』には大量の凶器が残っている。ただ、それもガンダレスには通用しないと悟った私は、自分の刀に手を添えた。これまであまり『抜刀術』を鍛えてはいなかったがこの場を一時的にでも離れる隙を作るために集中する。
「……『アーム・ベアクロー』。」
ガンダレスは大量の凶器が一斉に襲ってくる事にも動じる事は無く、2匹のぬいぐるみを変化させ、両腕の部分だけクマの着ぐるみの様な姿になる。その後彼の両腕からクマのような爪が生えた後、十字を切る様に腕を動かした。
「いやいや、いくらなんでも『殺戮魔法』の武器を一瞬で粉々に出来るか普通……。しかもアイツは無傷だし……強さの度合いがシンプル過ぎて逆に敵う気がしない……。でも、隙は出来た!!」
そう叫んだ私は無謀にも数歩だけではあるが前に飛び出した後、勢い良く刀を抜いた。ただ、この時私は真っ向勝負をしようなんて事は考えていない。むしろ卑怯な事をしようとしていた。……簡単に言えばスキルによる攻撃……相手が確実に認識できそうに無い攻撃を使用したのだ。
「『転身剣』……まぁ、卑怯なスキルかもしれないけど、一時撤退するにはこれしか無いんでね!!」
『転身剣』というスキルは抜刀時のみ不可視の刃を剣や刀に付与し、使用後は転身し後ろに下がるというヒット&アウェイの戦法には大助かりな物だ。ガンダレスは私が攻めてくる事が予想外だったのか、防御の態勢を取っていなかった為にこれを普通に喰らっていた。
まぁ、本当はいつぞやの魔神と同じようにどちらかの腕を斬ろうと思ったが、ぬいぐるみでコーティングされている事を考えた結果ガンダレスの右目に直撃した『転身剣』は確実に彼の眼球を真っ二つにしていた。
「まぁ、多少の軌道修正はしたけど右目を潰せたのは大きいかな……。これでもう片方の目をやって『隠密』で逃げればどうにか出来る訳だし……いや、無理なんだろうけどなぁ……。」
私は卑怯な奇襲ではあるものの、片目を潰した事は大きなアドバンテージだと思っていた。ただ、彼がそれくらいの事で動揺する処かすぐに回復できてしまう可能性がある事を私は疑っていなかった。それが私の過ちだろうと思う。このまま逃げようとせずに攻めていればさらに大きな隙を作ることが出来た筈なのにも関わらず、今の状況を楽観視してしまったのだ。
「……『パッチワーク・アイ』。」
ガンダレスがそう言いながら肌色の眼帯を付けたかと思うと同時に、私はそれに恐怖する。なんせその眼帯は彼の体に染みこむように溶け込んだ後、彼の新しい目を開かせていた。……いや、目を復活させるスキルなんて反則だろ!!と思いながら私は再び臨戦態勢を取るのだった。