英雄の地 アルバストア-1
「漁村を出てから2ヶ月程たったけどまともな食料に巡り会えないな……。やはり、漁村にいるべきだったのか……。」
「そうですね。でも、このポタージュも慣れればなんとかなる美味しさですね。まぁ、ここの調査が終わればすぐに旅立つつもりですけど。」
アルミナがそう言った為、私は店で出されたポタージュをすする。だが、パサパサとしたクルトンの感触や味の薄さに耐えきれず、胡椒を何回か振りかけてからスプーンですくうのだった。
「……とゆーかこの店はかなりぼったくってるよなぁ……ラピを連れてこなくて正解だった。これなら下町の店の方が味気のある食べ物があっただろうよ。」
「まぁ、文句は言わない方が良いですよ。……言いたいことはよく分かりますけどね。後で鰻丼送って貰って口直ししましょうか。」
「そうだな。……しかし、この街は無駄に広いから、散策するのも使える店を探すのも一苦労って訳だからな。これまでがというか、漁村までが順風満帆に行き過ぎたんだろう」
そう言いながら私はポタージュを何とか飲み干した。ただその後は空のコップに『清水の水差し』で水を注いでからそれを飲む。正直『清水の水差し』から出る水は味が良いわけでは無いが、この街で出される少々白く濁った水よりは大分マシなのだ。
そう思っていると、安っぽいワインの瓶を両手で抱きしめたキャバ嬢みたいな女が私の方に来た。そして、甘ったるい声で私を誘惑しようとする。だが、私は女である事からそんな誘惑は完全に無視する事が出来た。
「ねぇ~、髪の長いお兄さん~。今夜、私と遊びましょ?そんな女とは離れて離れて。」
「……さっさと出るぞ、アルミナ。ここの値段が高かった理由が分かった。まぁ、入店してから薄々感付いてはいたがな…。ここは娼館も兼ねた店だ。」
「なら高かったのも納得いきますね……。でもここで遊んでる暇はありませんし、帰りましょうか。」
娼婦らしき女性を無視しながら私達は会計へと向かった。有り難いことに女性は別の男に標的を移していたので無事に逃げ切ることが出来た。まぁ、ちゃんと会計は済ませたのだけどね。
「しっかし、ここが英雄の地と呼ばれる理由が分からねぇな……いや、ただの出身地であり晩年をここで過ごしただけだろ?まぁ、そのおかげで色々な資料が手に入るんだが……。」
「その割には昔ながらを強くしすぎている気がしますね。下町はさっさと新しい物を取り入れているので美味しいのでしょうけど。」
アルミナと話ながら、私はこの街の看板を思い出す。……『英雄ガゴーゼンの地 アルバストア』。……まぁ、一応英雄と言っても良い程の功績があるのだが、この街の様子を見て英雄の名に甘んじているなと思えてくるのだった。