漁村到着-3
私が頼んでから暫くすると、鰻の焼けている匂いがしてきた為、涎が少しずつではあるが垂れてくる。………………この匂いを嗅いでからアルミナ達も早く食べたくなって来たのか、メニューの方を凝視していた。
「ここは素直に鰻重にするべきか………いや、ひつまぶしの方も捨てがたいですし………………。」
「鰻は初めて食べますから、ここは無難な物にしようと思いますけど…………う巻きという物も気になりますし………。ただ、刺身という物は無いんですね?」
アルミナ達が言うように、この店にはひつまぶしやう巻きという物が存在していた。ただ、刺身はこの世界でも存在しない。これは安全を考えれば仕方の無い事だと思う。なんせ鰻は毒を持っているからだ。まぁ、焼けば毒は飛ぶのだが河豚の様に毒がある場所だけを取るという話は聞いたことが無い為、刺身を食べることは無いだろう。
「……………………う巻きか………。う巻きは前の世界でも食べた事が無いんだよな……………。」
「そうなんですか、マスター。でも、玉子と鰻という組み合わせは美味しそうですが……………サイズをどうするかで迷うんですよ…………。」
「まぁ、無難な梅か竹にしたら良いんじゃない?他の物とは違って吉野しか無いんだから。」
「そうですね…………ならそうします。『う巻き 竹』をお願いします。」
「あいよ、う巻きの竹ね。少し待っといておくれよ。」
ランタンの方は決まったのだが、アルミナとラピは未だに決まらないらしい。ラピに関しては鰻重とメニュー事態は決まっているのだが、撫子か吉野かで迷っているらしい。ただ、アルミナは異世界ならではの未知の鰻料理の方にも目が行っており、当分決まることは無さそうだった。
「はいよ。『鰻重 松の撫子』だ。ここの店では1番の売り上げを誇る定番商品だな。」
そんなアルミナの横顔を見ていると、私の席に注文した鰻重が置かれていた。その鰻重から溢れる匂いは食欲を増進させるのには十分であり、私は鰻重に箸を突っ込んで…………………ほんの数秒であるが意識が飛んでいった。
「………………あれ?もう半分食べてるような…………?」
私が我に帰ったのはランタンのう巻きが到着した時のおっさんの声であり、それまで私は一心不乱に鰻重を掻き込んでいたらしい。…………………口の中には鰻の旨みが残っている事から、あまりの美味しさで意識が飛んでいたという漫画のような事が起こったのだろう。
「………………………残り半分はじっくり味わって食べよう………。」
「それが良いですよマスター。下手するともう一つ頼む事になりそうでしたから……………。」
まぁ、1回食べたことがあればあの状態にはなりにくいので鰻の旨みを噛み締めながら、私とランタンは鰻を食べていくのだった。……………ただ、ラピとアルミナは未だに注文が決まらないわけですがね……。