昔の記憶-3
『……………………旦那様、なぜこの様な事が出来るのでしょうか?私には理解できません。まぁ、私は旦那様に付いていくと決めておりますので、剣城様を毒殺するという手立ては出来ております。後は彼がこれを食べれば良いのですが…………』
『そうだな、メダス。お前は優秀な執事だ。主の息子も必要とあらば消す事ができる。アイツが死なないのは剣城が生きている事が心の支えとなっているからだ。』
『ならば、その支えを壊してやれば……………と、旦那様も悪ですね……………そこまでして結城様に家督を譲りたいとは。』
『この財団はより儲ける事が出来ると重役達にも話しているからな。ここで邪魔な奴を排除しておくのも悪くないだろう………。』
これは私の記憶の中であるが、糞親父とその執事として雇われたメダスの会話を直接聞いていた記憶ではない。これはセバスが録音していた物をメダスに聞かせ、その真意を問いただしている所をたまたま通りかかっただけという様なシーンだったと思う。
「……………………………メダスよ、貴様は剣城様に何をしようとした?主の命とはいえその息子に毒を盛るという行為を平然とやるなど貴様は執事学校で何を学んできたのだ?これ以上の暴挙を重ねるならば我が親友であったリダスの息子であったとしても許しはせんぞ…………。」
「やだなぁ、セバス殿。主の命には絶対服従し期待に応えるのが執事という物ではありませんか。このメダス、主の命ならば自ら命を絶つことも容易なのですよ。」
「…………………違う。執事という物は間違った道を歩む主を問いただし、正しい道へと進ませる物だ。でなければ我らは奴隷とさして変わらんよ。」
セバスの言い分は正しいと答える人間が多いだろう。主を止める事が出来ない執事など、奴隷と変わらない。それがメダスには分からなかったみたいだ。メダスは糞親父に雇われた唯一の執事なのだ。まぁ、糞親父が雇えたのはメダス1人で有り、それ以外に声をかけた使用人達には全員フラれている。
「……………………さて、メダスよ。私は執事長として貴様に命じる。今すぐここを出て行き、執事を辞めろ。貴様は確かにリダスの息子であり、執事としての才能は引き継いでいる。だが、精神までは引き継げず、あの男に洗脳されたのだろう。執事という立場から離れて洗脳を解くと良い。」
「……………………駄目ですよ、全く…………。調理中に毒は混入できないし、運ぶ人間は懐柔できない。こんな状況でも旦那様の願いは1つだけ叶える事が出来るのです。」
そう言いながらメダスは私を毒殺しようとした毒の瓶を取り出して、そのまま口に含んだ。しかし毒霧の様にセバスに掛ける様な行動はせず、そのまま顔を青く染めながらバタリと倒れ、数回痙攣した所で息絶えた。その光景を隠れて見ていた私と間近で見ていたセバスは救急車を呼ぶが、メダスの目が覚める事は無かったのである。