織村隆一郎と鍛冶屋の事情-1
「儂の妻は儂の息子、ドーガを産んだ後に死別してな。ドーガに辛い思いはさせまいと鍛冶に関わる事を教え込んだ。後儂の妹に多少の料理も教えてもらっていたな。するとドーガは鍛冶と家事の両方が出来る奴になったんじゃよ」
「ちなみに妹さんは遠方の土地へ嫁いでいったらしいです。なので僕達は会う事は無いでしょうけど。」
「…………………で、そんなこんなで息子のドーガはとある冒険者と結婚してこの店を出た。………………じゃが、息子とその妻はモンスターに襲われてな…………ビーバを残して死んでしまったんじゃ。」
ただ、この言葉を言ったときに店主は拳を硬く握りしめていた。それも、血が滲みそうな程に……………だ。これは本当にモンスターにやられて無念だという事なのだろうとは思うのだが、もしかしたらモンスターに殺されたというのは建前で、何か裏があったのでは?と思ってしまう。
「ビーバを引き取った頃、ビーバは10歳だった。だから家の留守番をしていて難を逃れた訳じゃ。…………………難を逃れたのは護衛をしていた筈の冒険者達もじゃがな。」
「……………………それはどういう事ですか?」
「………………………………………………………………………………………。」
店主は怒りを抑えるためなのか、小さな声で話し始めた。まず、モンスターに殺された場所はこの町の中では無く、町の外の道だった。店主息子夫妻は仕事で隣町に行く事になっていたらしい。この時に店主の息子ドーガは、自分の妻が妊娠している事を店主に話していなかったらしい。
…………………まぁ、お腹が大きくなったと言うレベルでは無くて、ぽっこりと出て来てこれから気をつけよう的な時期だったらしいのだ。……………………それで馬車を借りて護衛の冒険者も何人か雇っていたのだ。
だが、その冒険者達は弱い敵ならば難なく倒せたが、店主息子夫妻を殺したモンスター、『ダイモンオーガ』には怖じ気づいたまま逃げてしまったらしい。…………まぁ、冒険者達が難を逃れたのは、馬車につながれた馬の綱を切った後に馬に乗って逃げたかららしいけれど。
元冒険者である妻も妊娠している事と引退してから10年間のブランク、武器を持っていない事もあったので当然何も出来ず、ドーガは武器作りの腕は良いが、それが強さと比例するわけも無く、『ダイモンオーガ』に殺されたのだ。
……………………ちなみに逃げた冒険者達は法的な罪でこれから先ドーガ夫妻が生きていたら手に入るであろう収入30年分のGを取られただけらしい。そりゃあやりきれない気持ちは残るわな…………そう思う俺達なのだった。