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はじめての自由
高熱を発した健が、眠り続ける間、雨は三日に亘って降り続いた
雨が上がると、奈央の遺体は、滑り落ちた斜面からかなり離れた場所で、土砂塗れの姿で発見された。
「お前は、なにをしていたんだ!」
奈央の遺体の前で、東京から帰って来た父親は、健に会うなり、鉄拳をくれた。
「何で、ちゃんと見ていなかったの!」
母親は平手だったが、心情的には、父親の拳よりも、痛みは強かった。
両親は、妹を失った兄を心配せずに、しばらくの間、健を罵倒と暴力の的にした。
「お前のような無責任な奴とは、一緒に暮らせん。これからは、離れに住め。本当なら、放り出してやるところだが、世間体もあるからな。感謝しろ!」
散々罵り、暴力を振るった挙句、父親は、健のために、部屋を用意してくれた。初めて個室を得て、健は少し嬉しかった。
冷たい目をした両親と、痛む体がなければ、もっと嬉しかっただろう。健は、算数のテストで、九十九点をとった時のような気分にまま、念願の個室での生活を受け入れた。