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ヘルハウンド・インカミング・ヴァレーノ

「がっ! 一体何が起こったんだ!」

 腕が切り飛ばされ、アヴェンタドールが解放される。力なく倒れこむアヴィスーツに反応することなく、オロチが絶叫した。ただ静寂が広がるのみ。今度は頭部の左側が切り刻まれる。目が黒ずみ、青白い閃光がはしる。

『アンタレス、ひどいやられ様だな。まさか、あの女狐を気にして手を抜いたのではないだろうな? だとしたら、今すぐ奴も消さねばならないが?』

「……よせ。私が弱かっただけだ。それにあの生体兵器は強い。油断するな」

『そうかな? 私にとっては、有象無象の醜悪なごみにしか見えんがな』

 実体なき声が鼻で笑う。アヴェンタドールが何もない空間に向かって話しかける。オロチが困惑している間に、体中が見えない何かに貪られる。抉られ、焦げついていく。

「僕がごみだって? ふざけるな!」

 キレたオロチが体を再生させようとする。だができない。黒ずんだ部分の細胞が壊死し、再生を阻害している。青白い光、高圧のプラズマによって、分子レベルで破壊されていた。

 アヴェンタドールをなぶり殺しにしていたオロチが、見えない存在によって蹂躙される。空間が揺らめき、赤いラインが瞬いた。

「姿を見せろ! この卑怯者!」

『屑が気安く話しかけるな。まぁ、いいだろう。アンタレスを可愛がってくれた例だ。死に土産に私の雄姿を刻み付けるがいい』

 オロチとアヴェンタドールの空間が、変わる。光学迷彩を解除し、サウンドイレイザーによって消された足音を踏み鳴らす。紅いゴーグル状のカメラアイが点灯し、サーモスラスターから黒い蒸気が排出される。ホイールが変形したクローユニットが、青白く発光する。

「な、何だ? これは?」

『スターライト・バレットのMFD、ボークス。組織に仇なす者として、貴様を処分する者だ。光栄に思うがいい』

 一匹の獣人、オウラメタル製ワーウルフが、虚無から姿を現した。アヴェンタドールと同時期に開発された、明確な意思を持つMFD。ガルーダ、アルターと違い、独自の思考を持ち、自分の判断で行動することが出来る。

 その使命はスターライト・バレット、ひいてはエルタニンとアンタレスに害を及ぼす存在の拷問、処刑、暗殺。バイク形態であらゆる悪路をも踏破し、狼となってプラズマの爪を突き立てる。その対象は敵だけでなく、味方にも及ぶ。存在自体が害とみなせば、情けの欠片も見せずに命を奪う。

 黒いバイク、今は闇に溶けこむ漆黒の猟犬が、アヴェンタドールに向き直る。

『さて、このまま奴を殺すのも一興だが、傷ついたお前を放置しておくのも忍びない。ここは合体して仕留めようと思うが、どうだ?』

「この状況で私を引っ張り出すのか? 助けに来てくれたのはありがたいが、これ以上、戦えるほどの力は残っていないぞ」

『それを補うのが私の存在意義であり、有用性だ。そちらの合体機構はいまだに無事。それに、実戦テストにもちょうどいい。さっさと蹴散らして帰還するぞ』

 ボークスがアヴェンタドールを支えるように立ち上がらせる。銀色のアヴィスーツより一回り大きいMFDが、背後に回りこみ、自らの意思でアーマーモードを起動する。アヴェンタドールとシステムを同調させ、ボークス側から合体コードを入力した。


 ダブルクロス・オン!


 狼が吼える。闇がアヴェンタドールを侵食する。ボークスが覆いかぶさるようにパーツを分離させ、アタッチメントを介して一体となる。

 クローユニットが肩に装着され、椀部にAGSスタビライザーユニットが接合される。太ももにボークスの脚部パーツ、マッスルチャージシステムがドッキング。かかと部分にサウンドイレイザーが組み込まれ、獣脚の異形が完成する。

 獣から悪魔へ。胴が装甲に覆われ、背部にタキオンジェネレーター、パルスボルトシステムが結合した。出力のデュアル化によって、青いパルスが赤と白に彩られる。アタッチメントを介し、装着されていたバズーカランチャー・パドロイド砲が展開。折りたたまれた羽のように収納される。

 転生。アヴェンタドールの頭部にボークスのヘッドユニットが食い込む。胸部から展開されたフェイスマスクが装着され、一筋のバイザーアイと、口部デュアルアイに火が灯る。五つの紅い瞳が同時に輝き、全身の装甲に紅白のラインがはしる。

 降臨。ボークスの装甲がアヴェンタドールの装甲を保護し、むき出しのマッスルチューブが、細胞活性化電波グラシャラボラスによって再結合、増強される。悪魔の皮を纏ったアヴィスーツが、闇の中へ降り立つ。

『これが我々がひとつになった姿、Vドールか。なかなか良いではないか』

 嬉々として合体アヴィスーツ、その中に介在するボークスがつぶやいた。白いフェイスプレートに紅い光が、まるで笑みを貼り付けているかのように浮かび上がる。暗黒の中で佇むそれに、かつてのアヴェンタドールの面影はない。

「な、何だそれは? そんなものがあるとまでは聞いてないぞ」

 レジナルドが抗議の声をあげる。その声はかすかに震えていた。怒りも、殺意もない。感情のない冷たい空気が、Vドールから充満していた。

『それは貴様も同じだろう。無意味に胸糞悪いごみを創りあげ、それをひた隠しにしてアンフェアな勝負を挑んだ。その報いを受けてもらおうか』

 Vドールが構えを取る。身を屈め、クローユニットを展開して椀部に装着する。脚部のAGSが稼動し、追加アクチュエーターが沈みこむ。獲物に飛び掛らんとする、獣の狩猟体勢だった。

『アンタレス。お前の精神負荷は相当のようだ。ここは私に任せてもらって構わんな?』

「いいだろう。私も正直、そちらのほうがありがたい」

 意思を持つMFDとの合体、バイタル結合によって感覚を共有し、お互いの六感を強化する。ボークスはハードウェア側であるアンタレスの状態を察知し、ソフトウェアである自分にスーツの主導権を移す。一心同体。単なる武装強化ではない。オロチと同様、二体がひとつとなることで真価を発揮する。

「だが条件がある。エステの安全とレジナルドを殺さないことだ」

『それを私が守るとでも? 私にとって価値のない存在を、わざわざ生かしておくとでも?』

「私は信じてるよ。お前の強い力も、誇り高き使命を持っていることも。だからレジナルドも、あのオロチも、お前は許せないんだ」

『……、よく言う』

 ボークスは呆れたような、感心したような声色でアンタレスの言葉を受け止める。アンタレスを守るのがボークスの使命であり、存在意義だ。そしてアンタレスもまた、崇高な使命を持っている。仲間を守り、テクノカラミティを鎮圧する。

 だからこそボークスは使命も信念を持たず、己の快楽のみを追及する存在が許せなかった。バイク形態の時に見たケンタウロス、そして今相対するオロチ。快楽におぼれるレジナルドの言うがままに動き、破壊の限りを尽くすだけの化け物。

 ボークスからすれば無価値の存在だ。そして無意味に自分の力を誇示する愚か者でしかない。レジナルドも、そして彼の作品も、ひとつ残らず消し去ってやりたかった。

「エステは私に必要な、かけがいのない仲間なんだ。そしてレジナルドにはまだ聞きたいことがある。だから」

『いいだろう。お前の使命を遮るのは、私の本意ではない。おとなしく、オロチがステーキになるのを待っているがいいさ。一分で終わらせてやる』

「助かる」

 それでも、ボークスはアンタレスの使命を尊重した。彼とは短い付き合いだが、組織に不可欠な存在で、なおかつ絶対的な遺志の強さを持っている。ボークスにとってアンタレスはただの守るべき対象ではなく、その価値を認めた存在だった。

「おいおい、僕のことを忘れてもらっちゃ困るな? やるならさっさと攻めてきなよ!」

 Vドールめがけて三本の腕が迫る。だがすでに、合体アヴィスーツの姿はそこになかった。

「なっ!」

 無音、オロチの背後に紅白の閃光がはしる。そのまま右肩、尾の先、左わき腹部分が赤黒く染まっていく。まるで空間そのものが、オロチを喰い荒らすかのように、傷口はますます広がっていく。

『遅すぎる。まるで歯ごたえがない。蛇のステーキとは、これほどまでに味がしないのか?』

 白い大蛇が声がした方を向く。腕が一本切り飛ばされた。パルスボルトクローによる一撃。ホイールが変形したクローユニットにプラズマを纏わせることで、有機物、無機物問わず分子レベルで大ダメージを与える。

 超躍、超加速、超反応。傭兵と人狼が交わりし悪魔が、闇の中を駆け抜ける。

「くそ、どこにいる! 出てこい!」

 レジナルドから余裕の色は完全に消え去っていた。熱感知機関、生体センサー、自身の五感、全てを総動員しても、Vドールの姿が補足できない。光学迷彩に消音装置、ステルス装甲により、あらゆる感覚は封じられていた。

『なるほど、死ぬのが怖いか? 安心しろ。死ねば苦しみはなくなる。全ては虚無へと還る』

 レジナルドの耳元で、悪魔のささやきが聞こえた。恐怖に支配されたオロチが、周囲のものを振り払うように腕を振りまくる。矢じりが無意味にコンテナを切り裂き、肝心の敵にはかすりもしない。倉庫内のあらゆる事象が、Vドールに支配下にあった。

 焦るレジナルドの前に、光学迷彩を解いたVドールが現れる。何も考えず、オロチは残り二本の腕を振るう。胸元に黒い悪魔がいた。超加速による縮地、悪魔の翼が開かれる。

『もういい。さっさと潰れろ、ゴミ屑め』

 その一言でオロチ本体の首が吹き飛んだ。紅い稲妻が轟く。パドロイド砲から発射された、プラズマコーティング徹甲弾によって、大蛇は再生不能なレベルにまで破壊された。たとえ心臓が動いていようと、細胞そのものが壊死している。完膚なき破壊は、あらゆる生き返りを許さない。

 強大な力は、より大きな力によって淘汰される。それが自然の摂理であり、絶対不変のルールだった。

「馬鹿な、馬鹿な馬鹿な馬鹿な! オロチが、僕が何もできずに!」

 もはや足かせでしかなくなったオロチの中で、レジナルドが上半身をバタつかせる。滑稽で、無様な光景。そこにVドールの砲口が突きつけられた。

『貴様は誤ったのだ。スターライト・バレット、そしてアンタレスに弓を引いた時点で、お前の死は決定した。戦う前から負けていたのだ』

 鋭い金属じみた咆哮。紅白のプラズマが弾ける。ヘッドディスプレイの照準装置が、レジナルドの顔面を捉える。砲口が火を噴こうとして、Vドールのプラズマが全て収まる。

「もういいボークス。今度こそ私たちの勝ちだ、レジナルド。お前も認められるはずだ。勝負はもう、終わったんだ」

 アンタレスがVドールのコントロールを握り、全ての攻撃行動を停止した。

『何故だアンタレス? こいつはお前が大事にしている女狐を傷つけ、お前と戦うためだけに、無意味な破壊を撒き散らした。たとえお前の秘密を知る者を突き止めるためとはいえ、そこまでして生かす価値があるのか?』

 ボークスが詰問する。アンタレスの悪い癖、甘さがレジナルドに情けをかけようとしている。そう感じての抗議だった。

「いや、こいつにはもう価値はない」

『何?』

「レジナルドには、何も残っていない。勝負には負け、生体兵器も出し尽くしたはずだ」

『だが命がある。法で裁く意味などない。ここで、おまえ自身の手で始末するべきだ。それだけの所業を、こいつはしてきたんだぞ?』

 ボークスの言葉に、Vドール、アンタレスは首を横に振って応える。先ほどの残虐さは鳴りを潜めて、ただレジナルドを見下ろす。

「もう命もないんだ、ボークス。オロチが死んだからか、急激に結合したからか、鼓動も、気配も弱まってきてる。レジナルドは最初からここで死ぬつもりだったんだ」

『馬鹿な……』

 アンタレスの電波は、レジナルドの生命が急激に弱まっていくのを感知していた。呼吸が荒くなり、苦しそうに喘いでいる。そんなレジナルドの姿を見て、アンタレスは思う。

 レジナルド本人は、自分が戦うのは予定調和ではないと言っていた。にも関わらず、何故彼は自分が合体する前提の生体兵器を創造していたのか? 自分に莫大な負荷がかかることを熟知していたはずなのに。

アンタレスは目の前に倒れ伏す青年を許すつもりはない。これまで繰り返してきた所業、仲間を傷つけた、過去に土足で踏み入った。自ら死を選び、罪を償うことを放棄した。

 だからこそ気にかかった。そこまでしてアンタレスと戦う理由は何だったのか? 個人的な興味だけで、命を投げ出すことが出来るのか? 狂っていると言えば済む話だった。だがアンタレスは、レジナルドが単純でないことを、この戦いを通じて理解していた。その先の真意を知りたいと思った。

 突如、アンタレスの足元、瀕死のレジナルドが笑い出す。弱々しくも敵を見下したような態度に、ボークスが不機嫌そうに鼻を鳴らす。

「相変わらず律儀だな、君は。聞いたとおりだ。誰よりも強くて、誠実で、お人好しだ。こんな僕のことでも、キチンと考えてる」

「どうかな? それより、約束は守ってもらう。お前は誰に私のことを聞いた? 何故、こんな計画を立ててまで、私と戦おうとしたんだ? 命を捨ててまで」

 レジナルドの目を真っ直ぐ見つめ、アンタレスが問うた。

「アンタレス、君は神の啓示を信じるかい?」

『神だと? こいつ、頭がおかしくなったのか?』

「黙っていろメカわんこ。僕は、アンタレスに聞いてるんだ」

 Vドール、誇りを傷つけられたボークスが右手のクローを突き立てようとする。それをVドール、アンタレスの左手が抑える。

「……信じられないな。そもそも、神が実在するかどうかも分からない」

「妥当な答えだね。でも言わせてもらうよ。神はいたんだ。僕に道を示してくれた」

 錯乱しているとしか思えないレジナルドの言葉。だが彼の目は澄んでいて、とても嘘を言っているようには見えない。

「見たのか?」

「見た。その力は絶大だったよ。退屈しきっていた僕の元に届けられたメール。そこに物語がつづられていたんだ。君の生い立ちや過去、様々な事件、超人に生まれ変わった経緯、そして合体アヴィスーツを駆る活躍ぶり。心が躍った。そして彼女が現れた」

「彼女? 神は女なのか?」

「どうかな? 神に性別があるのか? でも見かけは女だったよ。いきなり何もない場所から現れて、僕に語りかけたんだ。アンタレス。君なら、僕の願いを叶えてくれるってね。そのためのプランまで授けてくれた」

 か細く、おどけたようにレジナルドが話す。ボークスは死損ないの戯言と呆れていたが、アンタレスは彼の話に聞き入っていく。言葉に真実の色が宿っている。

「エステが接触してから、この戦いまでの全てが、そのプランどうりに進んでいたというのか?」

「勿論さ。WHOが僕の研究に目をつけていたこと。防衛省の安中が、ひそかにペンタゴンと通じていたということ。そしてゴースト、君の存在が、このストーリーを演出する格好の材料になったのさ。それまでエステ君はおろか、安中という男の存在すら知らなかった。僕がしたことと言えば、ケンタウロスやオロチ、そしてクローンを利用したナーガを造り上げることぐらいさ」

「何が、お前をそこまでさせた?」

「使命、だよ。アンタレス。君の大好きなね」

「……そうか」

 レジナルドが激しく咳き込む。口からおびただしい量の血液を吐き、人体が組織ごと崩壊していく。

「ぼく、僕は神に誓ったんだ。自分の命を捧げるかわりに、自分にとって意味のある、最高の使命を果たしたいとね。それが彼女がつくる、君の物語の、演出装置というわけさ」

「違う。それはお前の神に強いられた、ただのまやかしだ」

「ちが、わないさ。僕はずっと退屈してた。僕の異端じみた研究は理解されず、芸術を築いても誰も正当に評価してくれない。全てを受け止めてくれる相手などいなかった。だけど、君は違った。使命のために真剣に僕と向き合い、全力でぶつかってくれた。その気がなくとも、僕は嬉しかった」

「俺が特別だからか?」

「当然だろ。全てを失い、超人に生まれ変わっても、君は人であり続け、使命や仲間、強大な力を得て、受け入れられていた。それが、羨ましかったのかもね」

 アンタレスははじめて、レジナルドの中に秘められた感情を見た。狂気の中にわずかながらに混じった孤独、絶望、哀愁。もう一人のアンタレス、道を違えた未来を、プリズムがおぼろげに投影している。

 レジナルドを利用し、未来を歪めた。神と名乗る女。アンタレスはその虚像に敵意を抱いた。人の自由を奪い、運命を弄ぶ。決して許してはおけない。

「これが最後だ、レジナルド。お前の言う神と名乗る女。それは誰だ? 俺が知っている人間か?」

「会っている、と思うよ。彼女、自身、君のことを、ずっと、ずっと、見ていたふ、しがあったから……」

「っ!」

 衝撃が走る。アンタレスの全てを知る人間で、なおかつ女性である存在は限られる。レジナルドの話が本当ならば、神は……。

 その時、レジナルドの体が灰と化し、舞い上がっていく。血が溢れ出し、床のシミに変わっていく。腕が、骨が、心臓が虚無へと還っていく。アンタレスが思わず手を伸ばすが、レジナルドが首を横に振る。

「さて、アンタレス。僕から勝者への、最後の忠告だ。盤上の駒は、ゲームが終わるまで、与えられた役割を強いられる。やめたくてもやめられない。僕のようにね。はたして君は自分の意思で今の道を選んだのかな? もしも神を、定められた運命を否定するなら、君が神を……」

 ――君の中の女神で穿て。

 そしてレジナルドは消えた。アンタレスの中の女神、オリジナルナノマシン・ヴィーナスの名をつぶやいて。

『やっと死んだか。意味不明な言葉を吐き続けて果てるとは。結局、黒幕の正体は分からなかった。戯言に付き合うお前もお前だったが』

 合体が解除され、ボークスがアンタレスの目の前に降り立つ。血のシミを一瞥し、軽蔑するように鼻を鳴らす。

「お前には信じられないか、レジナルドの話は?」

『当然だ。お前はそうではないようだが』

「正直、俺も半信半疑だ。だがレジナルドの最後の言葉、それは覚えておいたほうがいいかもな」

 神を、殺す。言葉どおり、人より高位の存在を示しているのか、能力が特別秀でた者のことを暗喩していたのか? いずれにしても、アンタレスにとって最大の敵となることは明白だった。

 ボロボロのヘルメットを脱ぎ捨てる。目を閉じて黙祷を捧げる。同情ではなく、死者に共感を覚えたからだ。――その甘さが消えれば、お前は真の意味で最強になれるのだがな。ボークスのつぶやきを聞き流し、アンタレスが目を開く。前を見据え、告げた。

「さぁ、ボークス。エステを連れて帰るぞ。シラヌイも待ってる。ミッション完了だ」

 戦闘開始からちょうど一時間。アンタレスは仲間との約束を果たした。テクノカラミティ・トーキョーバイオテロは、この時をもって終息した。



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