ハーフ・アンド・ハーフ
一人淋しく(本人はそう思っていない)食事をするプラナ。そこに現われたのは……
「ごきげんよう、プラナさん」
「あら、ガーベラさん。ご・き・げんうるわしゅうございますわ!」
「あらあら、相変わらず機嫌の悪いことで。……さっきの件も見させてもらいましたよ? 私の家族は皆すこぶる驚いておりました」
「佐用でございますか。あのような美しくない料理を気にもせずにいただくような無節操無神経、愚鈍の極みたる人間にはなりたくありませんのでね」
「まあ、随分なご自信ですこと……ふふっ」
深紅の長い髪を伸ばした上品な女性は含んだ笑みを浮かべる。ディアナ=パークスはプラナと同じく上流貴族の者で、人間とディルマー(耳長種)のハーフである。
だ、名の通り、耳の上後部が長く、他の世界に住む伝説の生き物であるエルフに酷似した外観を持っ彼らは知性が高く、また「冥力」に優れている者が多い。この「冥力」は、この世界で広く使われる「冥術」に影響する。所謂魔法のようなこの術は戦いから普段の生活に役立つものまで百を裕に超える種類があり、これを専門にする者は「冥術士」と呼ばれる。ディルマーはこの職に非常に向いているのだった。ディアナもまた、その素養を持っているが、人間の血が濃いため耳もあまり尖っておらず、純血のディルマー程の冥力は持っていない。その代わり身体能力は上であった。
ハーフで上流階級と境遇がよく似ていて、騎士団「アウルファイン」のメンバーと言う点でも共通している2人だが、性格は大きく違っており、仲はあまりよろしくないのだった。もっとも、その原因はほとんどプラナの方にあったりするわけだが。
「ところで」ディアナは野獣を軽くなだめるような笑みで語りかける。「折角のお休みですのにお一人でお食事ですの?」
「ええ」プラナは笑みを浮かべる。しかし内心は、煙たい野暮野郎が来てうざったい事この上ないでございますわ! と、思っていた。
「寂しくないかしら? よろしければ、私の家族とご一緒にお話でもなさらない?」
「お誘いは嬉しいのですけど」誰がお前の家族なんざと話なんてヘドが出るでございますわ! と、プラナは思った。
「それは残念ですわね」
「上流貴族と言うものは、こういう一人で時間を大切にするものなのでございます。あなたのように家族で賑やかに、サンタイギス(大陸に住むバッタのような虫)のように騒いでばかりいては、考える時間をもてず時間を無駄にするばかりでございますわ」
「そうですか」
ディアナ顔には余裕が感じられた。それにプラナは眉をしかめる。
「しかし、そんなに思索に耽ってばかりいては、殿方が寄り付きませんわよ?」
「な……!」
「あら? どうしましたの? あたかも一度も恋愛関係になっした事が無いようなお顔をして。ふふっ、まさか貴方ほどのお人がそんな情けない経歴を持っているとはねぇ」
「ななな!」プラナは分かりやすく紅潮する。
「図星、だったのかしら?」
「そっ、そんなわけありませんわ! 学校に通ってた頃は随分と多く殿方に詰め寄られましたもの」
「へぇ」ディアナは疑わしそうな目をする。
「お、おほほほほ! 勿論その中に私に相応しい者はおりませんでしたから、丁重にお断りするか、深い関係になる前に私から直々に別れを告げてあげましたけれど! 」
「それで、具体的に何人くらいいましたの?」
「そんなの数える必要はありませんわ。たっくさんいたと言う事実だけで十分!」
「なるほど」
「何ですの!? 疑っておりますの!? 私が嘘を平然とつくとでもおっしゃりたいのその目はっ!!」
どー考えても嘘だろと、ディアナは思ったが、せっかくだからちょっとおちょくってやろうと考えた。
「その話が本当なら、見せてくださいます?」
「え!?」
「殿方を華麗に惚れさせるプラナさんの姿をね」