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華やかなる夜会。華やかざる……

 プラナは、妹にとっては尊敬できるお姉ちゃんなのであった。



そして夜会の日が訪れる。


 エステバレール社交場。そこは、貴族しか訪れることのない豪華なエンターテイメント施設であった。真っ白な建物の壁や柱は全て大理石でエルモンド式の重厚かつ繊細な彫刻が施されており、来るものを魅了する。中庭の煌びやかな噴水も含めて芸術的な部分がある一方、。宿泊できる部屋を30持ち外にはプール、中には温泉やカジノがあるなど娯楽要素も非常に充実している。ここに一度泊まった事があるだけでも、庶民にはステータスになるくらいの、素晴らしい場所なのである。しかし、上流貴族のプラナにとっては、ここに来る事は全く大した事ではなかった。



「キー! あんの、クソ野郎が!」



 大理石の磨かれた床をハイヒールで遠慮なくガシガシ踏みつける。怒っている時は近くに沢山人がいても全然恥ずかしいと思わないのがプラナなのである。


「ディアナのヤツ、この私をいつまで待たせる気ですの!?」


そのくせ時間には几帳面で、予定の時間の10分前には必ず目的地に到着し、約束した相手に対しては1分遅れただけでこのようにキレてしまう。貴族には10分間ルールというものがあって定刻より10分以内なら遅れても咎められないのだが、プラナには関係ない。



「あら、ごきげんよう」

と、2分後にディアナが馬車から降りてきたときには、プラナの顔はリンゴのように真っ赤であった。


「遅いにも程がありますすわ!」


「ごめんなさいね。馬を飛ばしてきたのですけど、道端に大きな石が落ちておりましたから少し時間をロスしてしまいましたの」


「ふーん、なんかうそ臭いでございますわね!」


「フフッ。そんなことを詮索するより、ご自分の事を考えたほうがいいんじゃなくて?」


「話をはぐらかすつもりでございますの!? 悪いんですが、私は無駄な自分探しはしないたちなんでございますの!」


 「まあ、羨ましいくらいの、強気なお言葉ですわ。では、会場へ行きましょうか。あなたの、殿方を魅了するお姿、期待しておりますわよ」


「けっ!」



2人はハイヒールをかたや上品に、かたや荒々しく、コツコツと音を響かせながら長い通路を歩く。目的の会場はすぐそこだった。


金俟天(きんしてん)の間」


そこは何百年も前から存在するエステバレール社交場で最も古く、最も大きな部屋である。壁の壁画は大陸で識らぬものはいないと言うほどの天才画家デミオシザクが、この世界の誕生について細密に描いたもので高い芸術性を持つ。神を見上げる人々はまるで生きているかのようで、あるものは燦々と喜びの表情であるが、悶え苦しむ者、頭を覆って嘆き悲しむ者、そのすべてにリアリティが感じられるのだった。


プラナもそれを読み取る感性を持っているのだが、少なくとも、今はそんな絵に見惚れる様子は微塵も無かった。頭の中は自分を試してきたディアナを逆にギャフンと言わせる事で満杯なのだ。


ごった返す高貴な人々中をかき分け、2人は舞台に近い席に陣取った。これは、ちゃんと意味がある。社交の場に初めて出る者は人前に立って必ず自己紹介をする。そして、エステバール社交場の場合はこの舞台の上なのだ。金俟天の間は劇場並に広い上、沢山の貴族がナイトパーティに参加しているため、最前列にいかないと新米貴族をしっかり見ることは難しいのである。ちなみに、プラナもかつてこの舞台の上で自己紹介をしたのだが、持ち前の口から出任せな話術を発揮し、さすがは名門カイザーウォーク家の者だと多くの貴族が彼女を一目置くことになった。ただ、プラナが一目置かれる理由は今となってはかなり変わってしまったのだが。



「皆様、ナイトパーティにお越しいただきありがとうございます」


しばらくすると、舞台の上でタキシードを来た角刈りの司会者が大きな声と冗舌な口調で話しはじめた。貴族達はみな礼儀正しいので、すっと静かになり、彼の話に耳を傾けるのだった。五月蝿いプラナも流石にこの時は口を閉ざしたが、心の中ではサッサとドーデモ前置きを終わらせて本題に入ってくださいなと思いイライラしていた。



「……では、まず皆様には、本日より社交界に加わる新しい仲間を紹介いたしましょう」



そして、待ち望んだその時が来ると、やっとですのねと呟き、フンと偉そうに鼻息を出す。




「では、お入りください!」




舞台の奥にある扉がゆっくりと開いた。その瞬間、会場からは拍手が巻き起こる。これも、新人に対する社交界恒例のものであった、プラナだけは拍手もせず腕みをして「目標」が現われるのをドンと待ち構えたのだった。



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