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変貌する世界

道路を行き交う車の列。駅の入り口は、電車を乗り降りする人達で絶え間なく続いていた。

ここはJR池袋駅。時刻は午後の四時を過ぎたところである。

大勢の人達で賑わうこの街に、ある異変が起きようとしていた。

 横断歩道の赤信号が変わるのを待つ人達。

大勢の人達が信号が青に変わるのと同時に歩き出す。

 大勢の人達が交差する横断歩道で、突然一人の男が道に倒れた。

『ドサッ……』

 心配した一人の女性が倒れた男に声を掛ける。

「どうしました? 大丈夫ですか?」

 女性は男の異変に気が付き声を上げた。倒れた男の顔に得体の知れない黒い物体がべったりと張り付いていたのである。

 海水を漂うクラゲのようでいて、スライム状のぬるぬるした物体。その奇妙な物が顔全体を覆っていた。

「きゃぁぁぁぁっ……!!」

 女性は地面に腰を落とした状態で、その場を後ずさりする。周囲の人達も何が起きているのか把握できず戸惑っていた。

 だが、その直後である。人ごみの中で、人が男と同じ様に音を立てて倒れ始めた。

『ドサッ……』『バタッ……』

 倒れた者の体には、同じ様に黒い物体が張り付いている。良く見ると、それは生き物であるかのようにクネクネと動いていた。

「うわぁぁぁっ!! 何だこれは!?」

「きゃぁぁぁぁっ……!!」

 得体の知れない生き物は恐怖と嫌悪感を呼び、見た者を振るえあがらせた。

 そして群衆の中で、一人の男が何かを見つけて空を指差した。

「おいっ何だあれは……何か落ちてくるぞ!!」

 皆が一斉に空を振り向く。そして視界に入って来た物は、黒い物体がバラバラとこちらに落ちてくる様子であった。

「きゃぁぁぁぁっ!!」

「うわぁぁっ……!!」

 人々は一斉に駆け出し、その場を離れようとした。

 頭を抱えて走り出す者。人を押しのけて自分だけ先に進もうとする者。周囲は完全にパニック状態に陥っていた。

 地上に落ちてくる黒い物体は、容赦なく人の上から降り注ぎ、逃げ惑う者達を襲った。

 恐怖に満ちた叫び声が辺りに響く。

 倒れて動かなくなる者。その傍で泣き叫ぶ子供。道路には夥しい数の倒れた人で埋まっていた。それは、まさに地獄のような光景であった。

 だが、このような現象が起きているのは、この池袋の地だけではなかった。

 都内の各地で同様のことが起こっていたのである。


 東高新聞社特別報道部――記者である神楽坂三咲が所属している部署である。

 部屋の奥の壁際、机の上には山のように積み上げている書類や資料。それらの陰に隠れて、離れた位置からでは彼女がそこに居るのかさえも分からない。

一人黙々とパソコンを打ち込む神楽坂。昼間に取材した記事の原稿を書いているのである。

自分専用の赤いマグカップに入れたコーヒーは飲みかけのまま放置されて既に冷め切ってしまっていた。

そこに突然、同じ部署の人間の叫び声が響き渡った。

「おいっ大変だ!! 事件だ事件……テレビを見てみろよ、大変なことが起きているぞ!!」

 その声に報道部はざわめき立つ。

「うーーん、何なのよ煩いなぁ……」

 神楽坂はおもむろに席を立った。

 テレビの前の人だかり。それを覗き込む人達の表情は、みな真剣で険しい。

「うん!? 何があったというのよ……」

 彼女は人だかりの後ろからテレビを覗いてみた。

 テレビの画面に映るのは、ヘリから地上を映した中継画像であった。道路に倒れている夥しい人の数。建物から立ち上がる炎と黒い煙。そこに起きている事が尋常でないことは一目で分かる。

「!? 何なのこれは…………」

 神楽坂は言葉を失った。

「おいっ……ヤベーぞ、これは……」

「何が起きたら、こんな風になるんだよ……」

 それは東京駅周辺の映像であった。広範囲に渡って人が倒れている。何かの原因で爆発が起こったとしても、これ程までにはならないであろう。

 カメラのズームアップが倒れている人達の姿を克明に映し出す。

「ヤバイだろ……これ……」

「俺、ちょっと街の様子を見てくるわ……」

「そうだな……こんな所に居ても何も分かりゃしない。自分の目で確かめてナンボの商売だからな」

 テレビの前から段々と人が離れる。報道部は慌ただしくなり、機材一式が詰まった鞄を手に取ると慌てて部屋を飛び出す者もいた。

 すると、部屋を飛び出す者と擦れ違うようにして、カメラマンの山田が中に入って来た。

「神楽坂先輩、大変っすよ。街が大変なことになってます!!」

「ええ、分かっているわ。今、そこのテレビで見ていたから」

 神楽坂はテレビから視線を逸らさずに彼に返事をする。ジッとテレビを見詰めて、何かを真剣に熟考している様子であった。

「私達も行くわよ……」

「えっ? 行くって……あそこにですか?」

 山田はテレビを指差した。

「当たり前でしょ? あなたカメラマンなんでしょ? これだけの事件を前にして行かないとでも言うの? 別に私は一人で行っても構わないんだけど……」

「い、行きますよ……誰も行かないなんて言ってないじゃないですか……今、機材を持って来るから置いて行かないでくださいよ」

 山田は慌てて部屋を飛び出した。

「……空に浮かぶ形を変えない雲のような物。それと時を同じにして増えだした原因不明の昏睡状態の患者……そして、東京駅周辺の大惨事。まったく悪い予感しかしないわね……」

 神楽坂は、これらの出来事に何らかの繋がりがあると睨んでいたのである。

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