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闇に蠢くもの

救急車の甲高いサイレンの音が街中に響く。

街灯の明かり、流れるような車のヘッドライト。その中を赤色灯を回して一台の緊急車両が走って行った。

 今日は、いつにも増して出動の要請が多い。しかも、不思議なことに似たような患者ばかりが運ばれていたのだ。

 原因を特定できない意識不明の患者。外傷が見られず、病院側もその症状に頭を悩ますばかりであった。

 そして、ここに現場へと急ぐ一台の救急車両があった。

「連絡のあった場所はこの付近だな……」

「はい。利根公園のテニスコート横で意識の無い男性患者がいるそうです」

 救急隊長の言葉に機関員の杉田が答える。

「よし、その公園入り口に車を止めろ。杉田は車で待機。私と小林で現場に向かう。小林、ストレッチャーの準備だ」

「はい。了解しました」

 救急隊員の小林はストレッチャーと呼ばれる車輪付きの簡易ベッドを車から降ろす準備をする。

 利根公園は緑の多い憩いの場と野球・テニス・競技場などの施設を兼ね備える大型の運動公園である。

 だが、運動施設の利用は午後の五時で終了となり、午後の九時を過ぎた現時刻では人の通りも極僅かである。

 公園灯の薄暗い明かりの中を二人の救急隊員がストレッチャーを押して進む。連絡のあったテニスコートを目指しているのである。

 この薄明かりの中で急病人を発見できたのは幸運であったのかもしれない。ジョキング中の男性がたまたま倒れている人を発見したのである。彼の通報により消防署に救急自動車の出動の要請がきたのだ。

「青島さん、あれを見てください。あそこに倒れている人が……」 

「うっ……だがこれは…………」

 隊員の小林の声に、隊長の青島は言葉を失った。連絡のあった場所に患者はいた。だが、倒れている人数は三人。その倒れている中に警察の姿もあった。おそらく、連絡を受けて駆けつけたに違いない。

「何だこれは……ここで何があった……?」

 二人の救急隊員は倒れている者に歩み寄りそっと体に触れた。

「……大丈夫だ。脈はある……」

「でも青島さん、この症状って……」

「そうだ、今朝から続いているものだ……だが、これは明らかにおかしい。同じ場にいた三人が意識を失うだなんて……何か必ず原因があるはずだ」

「……青島さん……」

「何だ小林。何か分かったか?」

「いえっ……何か居るんです……さっきから俺達の周囲でガサガサ音がするんです……」

「なんだと? こんな場所に何が居ると言うんだ?」

 青島は暗闇に目を凝らした。すると確かに動く物体が見える。それが何であるのか暗い為にハッキリとは分からないが、猫程の大きさの物体が数体動いているのが分かる。

「……何だあれは?」

 だが、それは猫や犬などの動きとは違っていた。昆虫の動き――それも、蜘蛛やゴキブリのようにカサカサと早足で移動している。

「ひぇー、青島さん何ですかあれは?」 

「馬鹿野郎っ!!俺に分かるわけないだろっ!?俺が聞きたいくらいだ」

 暗闇から這い出たその姿は、昆虫のような長い足に黒光りする硬い羽。だが、猫程の大きさの昆虫などこの日本に存在するはずがないのである。

「まさか、この患者はコイツラのせいで……」

「逃げましょう青島さん!!こんなのに襲われたら絶対に勝てるはずがありませんよ」

「ああ、賛成だ小林……早く、この場から立ち去ろう」

 しかし、それは少し遅かった。暗闇から現れたソレは数を増やし彼らを取り囲んでしまった。

 カサカサと動く不気味な生き物。それが何であるのか分からないだけに余計に嫌悪感が増した。

「どうしよう、逃げられない……誰かの助けを呼ばないと……」

 小林はポケットから携帯電話を取り出して、車で待機している杉田に連絡を取ろうとした。だが、震える指では上手くボタンを押せない。 慌てる小林に正体不明の生き物が飛び掛った。

「うわぁぁぁぁぁぁっ!!」

「コバヤシィ――――!!」

「助けて……助けてくださいっ青島さん!!」

 その虫のような物体は小林の体から離れない。虫の持つ独特な形状をした鉤爪が小林の皮膚に食い込んで離そうとしないのだ。

 青島は何も出来ない。彼を助けたくても恐ろしさの余り体が動かないのだ。

「ひぃぃぃぃっ……何だコイツラは……」

 小林の体に正体不明の生き物が次から次へと這い上がる。まるで、飴玉を見つけた蟻のように群がっているのだ。

 やがて、小林の体が地面に倒れる。

「小林……おいっ!! 小林、しっかりしろ!!」

 だが、彼の体はピクリともしない。彼の声も既に届いていないようであった。

 青島は膝を地面に落としてへたり込んだ。逃げる気力が無いと言うよりは、錯乱して意識が希薄になり、何が起きているのか把握できていないようであった。

 やがて、青島の体にも正体不明の生き物が這い上がって来る。そのズッシリとした重さが足や腕を伝い頭の先まで上がってきた。

「うわぁぁぁぁぁぁあああ……」

 それは一人の男の断末魔であった。

 だが、その声は誰にも届かない。公園の木々が音を遮断して掻き消してしまう。

そして、そこで何があったのかさえ誰にも知られることなく時間は過ぎた。

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