戦う為の決意
日本の関東平野中央部、東京湾に面する世界最大級の都市――東京。
今、ここは正体不明の敵により混乱に陥っていた。
人々は倒れ、何が起きているのかも分からず、ただ絶望し、そして命を落した。
そこに普段の町並みは無い。至るところに人間が倒れ、黒い煙を吐き出しながら真っ赤な炎が上がり、それは生きている人を見つけ出すのが難しいほどであった。
乗り捨てられた車を踏み潰しながら闊歩する巨大な爬虫類。大空に舞う巨大な怪鳥。昨日までの平和な日常が一変してしまったのだ。
このような絶望の中で、地上より遙か上空で戦っている男達が居た。
一人は異界から来た戦士ラナーク・アルバナード。そして、相対するは彼の部下であるアルフォンゾ・ドライト。
だが、アルフォンゾに彼の意識は無かった。正体不明の何者かに体を奪われてしまったのだ。
ラナークが本気であることは彼の目を見れば分かる。彼は全力でアルフォンゾに挑み、これを打ち倒す覚悟で持てる力を振り絞って呪文を詠唱した――
「我が前に集いし紅蓮の炎よ、劫火となって全てを焼き尽くせ……」
そして、アルフォンゾもラナークの魔法に対して魔法で応戦する為に呪文を詠唱する――
「我と汝の障害となる全ての壁を崩し虚無に返せ……」
「メルト・ストーム!!」
「プロースィヴ・ハンマー!!」
――二人の力が中心でぶつかり合う。
互いの力が衝突し、押し合い、やがて爆発という形で弾け飛んだ。
光り輝く一つの球が一気に膨らんだ。ラナークとアルフォンゾの二人を巨大な閃光が飲み込み、ものすごい轟音が大気を振るわせた。
それを地上で目にしていたアデラ・バスラーとイーダ・エンシェンの二人――彼女達は恐怖を感じた。
「ヤバイ!! 衝撃波が来るぞ!」
「魔法壁を張るわ! アデラは私の力と同調して!!」
彼女達の二人が力を合わせて作りだした魔法による結界陣。その防御壁ができるや否や、
間髪を入れずに爆発による衝撃波は二人を襲った。
周囲の建物は瓦礫となって崩れ、辺り一面を吹き飛ばし、超高温の熱線が大地を焼いた。
巨大な爆発が起こった後、上空で戦っていた二人の姿は消え、物音が何も無い静寂が訪れた。――彼らの戦いは終わった。
「うー、何とか凌げたぜ……」
アデラは疲労困憊で地面に腰を下ろした。
「すごい爆発だったわね……」
イーダは周囲を見回す。大地は焼け、建物は粉々に吹き飛び、瓦礫と抉れた地面だけが残された。
「隊長は? アルバナード隊長はどうなった?」
「大丈夫だと思う……たぶん」
「まぁ、あれでも十二魔導将の一人だからな。あれくらいじゃ、何てことないか」
「ちょっとアデラ……自分達の隊長に『あれでも』は無いんじゃない?」
「そうか? アハハハ……」
その時、瓦礫の一つが転げ落ちる音がした。
アデラとイーダもその音に気がつき、その方向に目をやった。
瓦礫の山であった所が一度膨らみ、音を立てて崩れ出した。中から姿を現したのは機械の体を持つ巨人、魔導機動歩兵のジェンカであった。
「おー、ジェンカ……そこに埋まっていたか!」
体長四メートル近くの巨体が姿を現した。
そして、その後に続いて魔導機動歩兵シルフィーも瓦礫の中から姿を現した。
「あら、シルフィーもそこに居たのね」
アデラとイーダの二人が魔導機動歩兵のもとに駆け寄った。だが、二人の足は直ぐに止まってしまった。なぜなら、シルフィーの腕の中にアロワ・ブルーニの姿を見つけたからである。
――彼は絶命していた。
「アロワ……」
アロワ・ブルーニ……彼はアルフォンゾ・ドライトと共に今回の作戦から隊に加わった新兵であった。
そして、彼は友人であるアルフォンゾの体を乗っ取った敵によって命を奪われたのである。
「ちくしょう……俺達はいったい何と戦っているんだ……巨大な化け物だけじゃなく、俺達のような人型まで居やがる。しかも、その実力はアルバナード隊長に匹敵する力量だ。くやしいけど俺達では歯が立たない……」
「アデラ……あなたにしては珍しく弱気なのね」
「イーダ……でもさぁ……」」
「考えてみて、私達は部隊の一兵士にすぎないの。私達の力で適わないのなら、私達は私達のできる事をすればいい。アロワの仇はアルバナード隊長に任せましょう」
「そうだな……それに、隊長が黙っているはずないもんな」
「そういうことだ!」
――背後から声が響き、彼女達は後ろを振り向いた。
「アルバナード隊長!」
「おまえ達、無事か」
「隊長、俺達は無事だけど、アロワの奴が……」
――アデラは視線をアロワに向けた。
「……アロワを失ったのは隊長である俺の判断ミスだ、許せ……」
「いや、でもさ……あの場合、仕方ないよ。相手の正体も分からずに戦っているわけだし……」
「だからこそだ。もっと慎重に戦うべきだったのだ……俺は相手の力を軽んじていたのかもしれない。情けないことだ」
――彼は怒りに打ち震えていた。
今回の戦いで部下を一度に二名も失ったことになる。
これによって彼は自分に腹を立てるのと同時に、アルフォンゾの体を奪った敵に対して憎悪の感情がいっそう沸き立っていた。
「アルバナード隊長、それで相手はどうなったのですか?」
イーダは深刻な顔つきで彼に尋ねた。
「消えた――だが、あれで倒せたとは思っていない。手傷を負わせることはできたかもしれんが、あれしきの事でくたばるような奴ではない。それは戦った俺が充分に理解している」
「なぁ、アルバナード隊長……アルフォンゾの体を取り戻すことはできないのかい?」
アデラは納得がいかなかった。仲間の体が奪われたのなら取り戻したいと思うのが人情というものだ。
「……無理だ。諦めろ」
「でもさぁ……」
「あれは洗脳とか憑依とか、そういった類のものではない。完全にアルフォンゾの体と同化していた。今、この現状であいつを取り戻す方法や手段は無い。悔しいがな……」
本国に戻れば何か手段や方法があるのかもしれないが、ここは異国の地であり、彼らが持ち合わせている設備ではどうすることも出来なかった。
「俺に出来ることは、あの怪物を倒すことだけだ。アルフォンゾの体を奪われたままにはしない。決してな――」




