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纏わり付く不安

 東京都千代田区神田に自社ビルを構える東高新聞社。その屋上に二人の人影があった。

 神楽坂三咲かぐらざか・みさき。この新聞社の特別報道部に所属している若手の女性記者である。

 そして、山田陽一やまだ・よういち。彼は神楽坂と良く行動を伴にしている新人のカメラマンであった。

 神楽坂は何かを考えるように、缶コーヒーを片手に空をジーッと眺めていた。

「神楽坂先輩、こんな所で油を売っていていいんですか? 取材とか記事の整理とかあるんじゃないですか?」

彼はビルの屋上で、今話題となっている一筋の雲をカメラに収めているのである。

「煩いわね、取材なら朝から足が棒になるくらいしているわよ。だけど、時間が経つにつれてあの雲の正体が益々分からなくなった。

最初は隕石が原因でできた物かと考えていたけど……」

「隕石っスか? そりゃ、恐いですねぇー」

「……情報提供者の話によると『轟音と共に一筋の閃光がこの大空に走って、あの一筋の雲が生まれたと』ということ。だけど、これだけ時間が過ぎても雲の形が変わらないし場所も変わらない……普通では考えられないことよ」

「本当に何ですかねぇーアレ……」

「せめて、うちの会社にも取材用のヘリがあったなら、他の新聞社のように上空から調べることも出来たのになぁ……」

 空には数機のヘリが飛んでいる。新聞社やテレビ局が取材用に飛ばしている物であった。神楽坂は、それを羨ましそうに見詰めた。

「ハハハハッ……そりゃ無理っスよ。うちみたいな弱小の新聞社にヘリだなんて……そんな金あったら自分達の待遇をもっと良くして欲しいっス」

「なに生意気言ってんの。そういう事は、もっと仕事をこなすようになってから言いなさい」

「はぁーい…………」

「でも……私達は何か思い違いをしているのかもしれない……」

「思い違い? そりゃ、どういう意味っスか?」

「あれが雲じゃないとしたら…………えぇい、何を考えているんだ私は……」

 神楽坂は頭を掻きむしりクルリと踵を返すとスタスタと歩き出した。

「あれ? 神楽坂先輩何処に行くんスか?」

「席に戻るのよ。私は他にも片付けなくちゃならない仕事もあって暇じゃないのよ」

「はぁ……そうですか……」

 その時、振り向いた神楽坂の視界にある物体が飛び込んで来た。黒く落下する物体――ひしゃげたヘリコプターであった。

「あっ!? あれはっ…………」

 ヘリは地上に落下して黒煙をあげた。

「へっ!? 何ですか……何があったんスか?」

「どうして……一体何があったの……?」

 神楽坂は突然走り出した。

「あっ、待って……神楽坂先輩何処に行くんですか?」

 山田は彼女の後を追って走り出した。 


 東高新聞社特別報道部――ここは神楽坂が所属している部署である。ここに置いてあるテレビのモニターの前には大勢の人が集まっていた。

 神楽坂はこの人だかりに割って入り、テレビの画面を見詰める。

 画面に映し出される『取材用ヘリの炎上!!』のテロップ。慌てふためく局の人間の姿。

 神楽坂は言葉も無しにモニターの画面を見詰めた。

「えーー、先ほど起こりました取材用ヘリの爆発炎上事故ですが……もう一度、録画した中継映像を見て貰いましょう……こちらです」

 ニュース番組のキャスターが映像を交えて先ほど起きた事故の説明をする。映し出された映像は、局の女性アナウンサーがヘリの中で取材している様子であった。


「現在、私達は高度三千メートルの上空を飛んでいます。ですが、例の飛行機雲のような物は視認できません。途中から、その姿を見失ってしまいました。恐らく、例の飛行機雲はこの高度付近に存在しているものと思われますが、その姿を確認することは出来ません……そして、飛行機雲は高度約五千から一万メートルの上空に存在していることが多いとされていますが、例の飛行機雲はそれよりも遥かに低い位置に存在していることになり、

これが本当に飛行機雲なのかも怪しくなってきました……」

 キャスターはパネルの絵を使ってテレビの視聴者に説明を始めた。

「えーと……これは先程ご覧頂いていた映像の一部なのですが、不思議な事に地上から見えている一筋の薄い飛行機雲のような物が、空中からだと確認出来ない様子を映し出したものです。そして、光りの加減で見ることが出来ないのだろうと考えたスタッフが、例の飛行機雲に近づくことを再度チャレンジします。そして、今度は飛行機雲の中に入ることを目指し、真っ直ぐに雲を目指して飛んだ所、悲劇は起こりました……」

 画面は再びヘリの中の映像に切り替わった。

「――お分かりでしょうか……今度は先程までとは少し様子が違うようです。ヘリがだいぶ高度を上げたにもかかわらず、まだ目標を見失っていません……この分ですと、もしかしたら今度はうまく行くかもしれません」

 その時、実況の音声に混じりスタッフの話し声が入った。

「えっ……!? 何ですか? ちょっと待ってください――スタッフが何かを発見したようです……ですが、私には見えません……雲の隙間から何かが見えたらしいのですが……」

 ヘリは尚も上昇を続ける。そして雲に近づくにつれて不明であったものが徐々にその姿を現していった。

「えっ!? これって……何なの……?」

 その時、女性アナウンサーは確かにその目で見た――雲の向こう側に広がる大地を……だが、それと同時にヘリは目に見えない壁に衝突するかのように潰れて爆発してしまった。

送信していた映像は突然のノイズと共に途切れてしまった。雲の向こう側に何があるのかを映し出さないうちに……。 

 テレビを見ていた特別報道部の面々は騒ついていた。そして、この映像を見ていた誰もが驚きと不安を隠せない様子であった。

「か、神楽坂先輩……これってどういう事です? なぜ、ヘリは爆発したんですか?」

「そんなの分からないわよ……だけど、アナウンサーは何かを見たようだった……何も無いはずの空中に一体何を見たというの……」

 神楽坂三咲は何とも言いようのない胸騒ぎを感じた。それが何であるのか自分でも分からないが、とてつもない嫌な予感がしてならなかったのである。

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